立稽古が始まると、台詞をもうすでに暗記してしまったのは、やはり劇団員であった。

 

台詞はただ暗記しても意味がない。相手方との対応に反応して、自分の台詞を覚えていくのである。相手との動きのなかで台詞は完成していくものなのである。

 

相手の台詞を無視して、自分の役柄だけの台詞を覚えても、まったく意味をなさないのである。つまり、相手との台詞のやり取りなどから、自分の立ち位置を決めてリアクションしながら覚えていく。

芝居で台詞を覚えていくのは、相手との対応に反応しているうちに自然に台詞を覚えてしまうというものであるのだ。

 

日にちが経過するうちに新人たちも台詞は自分のなかに入っているーつまり、覚えていったわけである。

 

ところが、一向に台詞が覚えられずに手こずっていたのは、新人のケンちゃんだった。何度も、峰岸先生からやり直しをさせられていた。この姿を見て、私はケンちゃんへの思いは幻滅へと変わっていった。いったい、いつまでに芝居として台詞や動きができるようになるのか!見ているのも嫌になって来た。

 

その頃から、ケンちゃんっていいなと思っていた感情は消え去ってしまい、嫌悪感さえ感じていたのである。