数年後には牛の糞から抽出した成分が入ったバニラアイスが市場を賑わしているかもしれない。



随分と前の話になるが、歯茎が痛くて痛くて食事が出来なくなり歯科医院へ駆け込んだ。歯茎の激痛の原因は“おやしらず”によるものだと歯科医師から伝えられた。アゴをさすりながら不敵な笑みを浮かべて『フッ…やはりな。』と言いたいがそんな余裕は微塵もダッフンダ。口内をいじられた後に腫れと痛みを抑える薬を処方しもらい帰宅した。オペは5日後に決定した。



ダッフンダから5日経過し、オペ日が訪れた。人生初の抜歯ということもあって、少しソワソワした気持ちを胸に潜めたボクは、普段よりお洒落に着飾った衣装でリングに上がった。

キュイィィィィィン!

歯を削る音、すなわちオペ開始のゴング音がタマキンに響いた。麻酔は聞いていた話ほどは痛くなかった。それよりも麻酔の効いた状態の口元がだらしなくて仕方がなかった。“おやしらず”を抜歯した経験のある友人たちからは『オペは直ぐに終わる。』と聞いていた。どうやらボクのオペは例外のようだった。ドクターはドリルで何度も何度も歯を“キュイン!キュイン!”した。それでも歯は抜けない。

助手の参戦。

お世辞にも“セクシーダイナマイト”とは呼べない“ファンシーダイナマイト”な助手が右手でボクのアゴを掴み、左手でボクの頭頂部を掴んで顔面を固定した。続いてドクターがボクの額をヒジ置きにしてペンチのような凶器を手に構えた。ドクターが凶器でボクの“おやしらず”を捕えた。“力”の入り過ぎでドクターの腕はプルプルと震えていた。今までの麻酔やドリルでのジャブは何だったのか?と疑問を抱いてしまう“力業”のフィニッシュブローでオペは終了した。

鮮血に染まるマットは、よだれかけ。

オペ終了後に待合室で、関係のない箇所からの出血と麻酔が効いたままのだらしない口元を楽しんだ。ただ、あの“力業”には納得できなかったので待合室に設置されているキッズ専用の本棚に“夜と女と毛沢東”という本を忍ばせてきた。これこそが本当の“おやしらず”というものだ。我ながら良い教育をしたと思う。

キッズの未知なる可能性に未来を委ねる。