【2名様】





某バンドのギタリストはゴトシという職人芸に携わっていた為に国家公務員のお世話になっているそうだ。先日、その某バンドのライブを観戦してきた。かっこよかった。ゾクゾクッとした。ジョリジョリっとバリカンで毛髪や陰毛を剃毛されている紳士もいた。ステージには“毛”がたくさん落ちていた。楽しくて華やかなライブだった。



調子ぶっこく。



ボクが所属するバンドでドラムを担当している中村君はライブを見ながら缶ビールを数本あおっていた。ライブ終了後、呑み足りない中村君はリーダーを引き連れてボクが働く居酒屋へ同伴出勤した。終電まで1時間もなかったので中村君とリーダーは帰宅を諦め時間を気にせずに深酒を始めやがった。ボクは働き者だが宴会好きなので切なくなりながら2人の酒の肴を作った。



新システム。



午前2時頃に中村君が厨房を覗きこんで“一生懸命に働く青年”であるボクを呼んだ。そして中村君はアホだからボクに『今日、ここに泊まるわ!』とアホった。アホった中村君にボクは『いやいや、ムリやから。そんなシステムないから。』と言った。再び中村君は『えぇっ!マジでっ!』とアホって席に戻った。



酔っ払い。



中村君とリーダーはたらふく飲み食いをしたが2名で\3000未満という破格料金の会計以外に始発まで店内に居座れる特典まで獲得した。全て店長のご厚意だ。通勤は金色ダブルのスーツできめているだけのことはある。ノリは軽いが懐は深い。ありがたや、ありがたや。そんな素敵な配慮を把握できない酔っ払い2名様はスヤスヤとエロ面で眠っていた。きっとAVみたいな夢を見ているに違いない。このまま2名様を黙って放置するのは非常に心苦しいのでイケメンフェイスに落書きをすることにした。



ちちくび。



リーダーの左頬に“ちちくび”と書いた。全く気が付いていない。起きる気配が皆無だ。流石はリーダーだ。寛大すぎる。とりあえず首筋に“ペニス”と追筆しておいた。



ブルックリン。



昔、オダギリジョーがウルフカットをしていた時に、恋人へ“オレはウルフやで!”とメールを送っていた中村君の左頬に“ちんちん”と書いた。追筆で“うんこ”と書こうとした時、心が桂南光師匠の額ぐらい狭い中村君が気付いて目を覚まし『ちゃうねん…醤油が足りひんねん…。』と寝言を言った。アホや。再び中村君が寝息をたててから“うんこ”と追筆しておいた。



朝5時。



店が閉店しノーゲストになった店内で眠りこける2名様を起こし裏口から店の外へ案内した。2名様はヨボヨボなご老人のようなステップで駅へと歩いていった。



ほくそ笑む。



中村君は知らない。自分の鼻の真横にはハッキリと読み取れる大きな文字で“スペルマ”と縦書きされていることを…。



めでたし、めでたし。