【凄い。】





ケジメをつけるために“指をつめる”という儀式がある。厳しい世界だ。



予告編。



ボクみたいな者を働かせてくれている居酒屋に新人として入ってきたメンズは少女漫画に出てきそうな顔面をしている。名前を“バンコラン”としておこう。バンコランが働き始めてから3ヶ月ほど経過したある日、珍事件が勃発した。連発で。



ケジメ。



さほど店が忙しくない日、バンコランは自分で閉めた冷蔵庫の扉に自分の指をつめた。ついつい『何のケジメやねん!』と関西人してしまった。凄い。天才だ。プロも驚くアマ根性に脱帽だ。



男のオシャレは足元から。



店がヒマで通常より30分ほど早く仕事が終わった日、着替えをしていると、早々と着替え終えたバンコランが『おつかれさまでした!』と勢いよく裏口から店を出た。しばらくするとバンコランが自然な素振りで戻ってきた。どうやら職場のスリッパを履いたまま途中まで帰っていたようだ。凄い。天才だ。オシャレ泥棒もたいがいにせえである。



夢の中へ。



店が忙しい日、終電ギリギリまで残業してくれたバンコランに感謝の意を込めて“商品としては出せない形の崩れたデザート”を食べてもらおうと更衣室に行くと、スタッフ全員の制服が掛けてある棚でガサガサしているバンコランがいた。必死な形相のバンコランは『すいません!携帯に電話してもらっていいですか!携帯を棚の奥に落としてしまったみたいなんです!』とボクに言った。ボクは携帯を取り出してバンコランの携帯に電話をした。電話の向こう側からは虚しくも圏外のアナウンスが流れていた。バンコランに“圏外”を伝えようと振り返ったボクの目には携帯電話を握りしめたバンコランの姿が見えた。凄い。天才だ。斉藤ゆきが歌う“夢の中へ”が頭の中で流れた。



磯野カツオ。



あまりに店がヒマだった。どうしたもんかと思うほどヒマだった。各々が“普段は掃除しない場所”を掃除したり、“翌日の仕込みが楽になる”ように野菜を切ったり、デザートを仕込んだりしていた。バンコランは“つまみ食い”をしていた。それは“磯野カツオ”の“つまみ食い”を遥かに凌駕した“本気食い”だった。バンコランはオーダーが入ったかのように堂々と“つくね”を焼いて、誰にも気付かれないように“つくね”をタレで食べていた。その事実にボクを含め他のスタッフも気付いていなかった。だが、神様は見逃さなかった。それはそれは幸運なことに“つくね”を頬張るバンコランは料理長に目撃ドキュンされた。叱られるバンコラン。“恋人たちの囁く距離”で20分ほど叱られたバンコランは『次やったらクビやぞ。』と料理長に予告され、直ちに帰宅させられた。バンコランが勤務中にコソコソと隠れて喫煙しに行っていることも、本気食いしていることも料理長にはバレバレだったのだ。その後“バンコランへのお叱り”の詳細を料理長から聞いたボクは潮を吹きそうになった。凄い。天才だ。テクニシャンにもほどがある。



喪失。



バンコランには“わけのわからん根性”を喪失しないで人生を躍進して頂きたい。ちなみに“紅音ほたる”の処女喪失の相手は“キュウリ”だそうだ。凄い。天才だ。“オナニー”も“ソフトボール”同様に処女膜泣かせだ。



ちなみに、部活で“ソフトボール”をしていて“処女膜が破れた”という女子をボクは知っている。



めでたし、めでたし。