【ライブで叫ぶ】





野音。



実はボクが所属するバンドは過去に数回だが野音に出演したことがある。“バンドマンらしいこと”を言うと、野音のセッティングは非常に難しい。閉鎖された室内だと“ある程度の感覚”がわかるのだが、野外となるとわけがわからん。プロの野音とは違うのでリハーサルも無いに等しい。余計にわけがわからん。何故、野音に出演したのかもわけがわからん。“わかっていること”は『女性の胸で何が気になりますか?』と尋ねられて『味。』と即答できる大人は“素敵”だということだ。



好き。



いつだっただろうか?職場の先輩に誘われてボクが所属するバンドでドラムを担当しているナカムラ君と野音を見に行った。出演していたのは、エレファントカシマシ、ロザリオス、UA、少年ナイフ、ハイロウズ、ユダ、ミッシェルガンエレファントだった。まず、エレカシには間に合わなかった。会場に到着した頃にロザリオスが始まった。ボクもナカムラ君も“中村達也”が好きだったので“たまらん気持ち”になった。でも、まだ到着したばかりのボクらは遠くから見ることだけしかできなかった。スクリーンに映し出された“サックス”を演奏する武田真治の筋肉が凄かった。ボクが最も見たかったのは“浅井健一”が率いるユダだ。前日に雨が降ってグチャグチャになっている地面を蹴り上げ、人ゴミを掻き分けながら最前列の柵の前へと辿り着き“浅井健一”の目の前を陣取った。拳を振り上げ叫んだ。ステージに向かってタオルを投げた。タオルにはボクの名前を書いておいた。憧れへの敬意だ。泥まみれになって汗だくになった後のビールは最高に旨かった。日が沈む頃にステージに現われたUAは幻想的で美しかった。ハイロウズのステージは客席が他のバンド
とは違う“統制”がとれていて感動した。



ウエノコウジ。



ミッシェルガンエレファントのベースがとても好きだ。音、構え方、弾き方、動き方、全てが好きだ。ボクはユダの時と同様に最前列の柵前ベストポジションを確保した。乱闘騒ぎの様な場所で必死になりながらベーシストだけを見続けた。そして周囲の猛者たちと一緒になって拳を振り上げ叫んだ。



コール&レスポンス。



どのバンドにも“ライブうけ”する歌がある。客が一斉に拳を振り上げ叫ぶ箇所が用意されている歌だ。その狂気は素晴らしい快感だ。そんな狂気の中、ボクの後方で“間違ったフレーズ”を叫んだり、まったく違う箇所で“ひとりだけ叫んだり”している猛者がいた。あまりに酷い醜態に“どんなヤツや?”と思ったボクは後方へと振り向いた。笑ってしまった。そこにいた“イキり”はボクと一緒に来場したドラムの“ナカムラ君”だった。とってもアホ面だった。オランウータンかと思った。



知らないことの哀。



オランウータンは“あまりに楽しそうなボク”を見て“負けてられへん”という“わけのわからん気持ち”になり、猛者たちがひしめく渦へと身を投じたそうだ。そして、“オレも何か叫びたい”という“自分が世界の中心だ”という自分勝手な思想のもと“それらしいフレーズ”を叫んだそうだ。



世界の中心で“哀”を叫ぶ。



“知ったかぶり”でも“楽しければ”それでいい。たとえそれが周りに何と思われても。ボクはオランウータンからソレを教わった。でも、アホ面を晒すのは勘弁して頂きたい。バンドメンバー全員が“アホ面”と思われるのは迷惑だ。



めでたし、めでたし。