【かます】





ボクの祖母は“恋人”のことを“ガールフレンド”と言ふ。



兄は恋人がかわる度に恋人を実家へ連れて来ては家族に紹介する性癖がある。



10年ほど前のお正月だった。元旦の昼間に兄が恋人を連れて実家にやって来た。祖母は兄が恋人を連れて来たことがとても嬉しいようで喜んでいた。祖母は兄の恋人へ『この餅は田舎で作ってる昔ながらの餅やからおいしいやろ。ケイコさん、遠慮せずに食べてや。』と嬉しそうに言っていた。その後も祖母は兄の恋人へ『ケイコさん、この子はな、昔からおっとりした子でなぁ。』と言っては兄の昔話を嬉しそうに披露していた。



祖母の話に我慢できない“母”がいた。



“ケイコさん、ケイコさん”と何度も何度も兄の恋人に話掛ける祖母に我慢できなくなった母は小さな声で『タカコさんやで。』と関西人した。声の大きさといい、タイミングといい、ベテラン芸人の領域だった。ボクは必死にポーカーフェイスをキープしながら腹筋を潰した。



祖母は気付いた。“ケイコさん”は兄の前の恋人の名前だ。



祖母は正直者だ。祖母はタカコさんに向かって『あら、ホンマかいな。あんたケイコさんやないの?いやぁ、前のガールフレンドにそっくりやったから間違えたわ。ごめんなさいね。あんた、タカコさん言うの。そうかいな。』と言った。



祖母は88歳になった今でも稀に爆弾発言をかます。



元旦の夕方、祖母は帰宅する兄と兄の恋人を玄関先で見送りながら『ケイコさん、また来てくださいね。』と笑顔で言って2人に追い込みをかけたとさ。



めでたし、めでたし。