【歌謡日“四”】





決闘。



秋が冬へと衣替えをするころボクは公園で決闘を見た。それはナカムラ君とオオクマ君のギタープレイ対決だ。黒のブーツカットに革製のダブルのライダースを着たワイルドな風貌をしたナカムラ君に対峙するように立つオオクマ君は嫌味のない“さらり”としたオシャレ感を醸し出した服装だった。先に動いたのはオオクマ君だった。腰にぶら下げた小型アンプから歪んだ音で流れ出したのはボクが好きなバンドの曲のオープニングだった。ボクは単純に“凄い!”と思った。ボクの目の前には“見たことのないオオクマ君”が立っていた。そして次から次へとボクの知っている曲を弾いている。ボクにはオオクマ君が“ミュージシャン”に見えた。憧れていた“ミュージシャン”の肩書きをオオクマ君は持っていた。オオクマ君のギタープレイが終了した。ボクはオオクマ君のギタープレイに圧倒された。しかし、それはボクだけではなかった。ナカムラ君だ。様子のおかしいナカムラ君はボクに急かされながらギターを取り出したが、ストラップがないために片足立ちでギターを構えた。片足立ちするナカムラ君を横から見ると足が数字の“4”になっていることに気付いたボクはオオ
クマ君と二人でナカムラ君の“4”を楽しんでいた。ナカムラ君は重心が安定しないようで片足立ちのままフラフラと倒れそうになったり、それをこらえようとして片足でホップ・ステップ・ジャンプしたりと騒がしかった。結局はナカムラ君はギタープレイを披露しなかった。むしろ披露したくなかったのだと思う。なぜならナカムラ君が用意していた曲は“さくら”だったからだ。ギターの決闘はオオクマ君の圧勝で終了した。帰り道、ボクの横には“ミュージシャン”と“ケンシロウのコスプレイヤー”が並んでいた…。



つづく。