午前中の4時間目まで授業を受け⇒
給食を食べて⇒
昼休み⇒
掃除の時間⇒

で僕は帰宅⇒

そのまま出発。


という段取りだ。




今日で最後だ。



僕は特別な思いでいるが、
周りの友達は、割と普段どうりに見える。



休み時間、いつもと変わらない光景。
はしゃいでいる奴や、なにやらケンカしてる奴。


当たり前だが、

転校する僕が、今日を特別に思っている程、
皆、僕のことばかり考えてはいない。



ガヤガヤ騒いでいる教室をぼんやり眺めながら、

僕がいなくなっても、

明日からも、皆は変わらず学校生活が続くのだろうな

などと考えた。







昼休み、いつも隣のクラスとサッカーの試合をする。


今日は『山が最後の試合』と題して、試合をする事になった。





有終の美を飾ろう!!



試合が始まった。




皆が


「山に回せ!」


と、僕にボールをくれたが、

相手のクラスの奴が容赦なく突っ込んできて、
あっけなくボールを取られた。


それでも皆、僕にボールを集めてきた。


いつもなら、

「何しよんね!」
と、文句を言われるところだ。



「山に回せ!

  山に回せ!」


クラスのリーダー的存在で、
一番仲のよい真司(実名)が叫ぶ。



だが、なかなかゴールが決められない。
うえに、2点3点と相手クラスにゴールされてしまった。


いつもは割と勝つことが多いのに。
その日に限って絶不調だ。



真司が苛立って、誰かに怒鳴っている。


「山に回さんかい!」



お調子者で、あまり好きではなかった、しんご(実名)も


「山!俺とゴールデンコンビだ!」


などと、訳の分からないことを叫びながら、
僕にパスをくれる。



皆がパスをくれる。


仲の良かった奴も、


悪かった奴も、


いじめちゃってた奴も、


あんまり絡んでなかった奴も、



皆が僕にパスをくれる。


でも僕はゴールできない。

申し訳なくなってきた。



皆が僕のために頑張ってくれているのに。



最後なのに。



今日で最後なのに。



皆とサッカーができるのも、これが最後なのに。





気がつくと、下を向いて泣いていた。


抑えきれなかった。





これで最後なんだ。




昼休み終了のチャイムが鳴った。




僕がうずくまっているので、皆が寄ってきた。


昨日まで、

さっきまで、

ケロッとしていた僕が、
うずくまって泣いているので、

皆、戸惑っている。


試合は3対0くらいで、負けた。


負けた悔しさと、

これで皆とお別れだ、
というのが、入り乱れて、

ひっくひっく泣いていた。


だましだまし笑顔でいた僕だったが、
サッカーで急激に「最後」の実感があふれた。



お調子者しんごが、


「お前ら、血も涙もねーのか!!」


と、隣組の奴らに怒鳴っている。



皆に連れられて、教室に戻った。


気がつくと、数人泣いていた。
僕がよく意地悪をしていた草場君(実名)が、泣いていた。
真司は見当たらない。



先生が泣いている僕を見て、ちょっと笑った。


「今日はもう掃除はいいから、帰りなさい」



掃除をせず帰ることになった。


教室を出るとき、隣のクラスの子等も、

山口君が泣いてる・・、

って感じで見ていた。



その中に藤田さんが目に入った。
僕はひっくひっく泣いているので、何も言えない。
泣いてなくても何も言えないか。



先生と皆が校門まで送ってくれた。



校門を出ても、しばらく後ろから

「さよーならー!!」

と聞こえてきたが、
振り返る余裕はなかった。




皆の声が聞こえなくなった辺りで、


声を上げて泣いた。




泣きながらいつもの道を一人で歩く。



そして、いつもの歩道橋を渡る。


すると階段を下りた所に、

母が待っていた。



おそらく、先生が家に
「隆志君が泣いちゃっているので・・・

  迎えにに来てあげて下さい」

的な電話をしたのだろう。



母が見えた瞬間、

泣いているのが恥ずかしかったが
泣き止むことはできなかった。



母は
「なによー、泣いてー。」
と、笑った。



並んで歩き出した。



しばらく黙って歩き、


ふと隣で歩いている母を見た時、




母が泣いていた。




かわいそうだと思ったのだろう。


泣いている母を見て、おさまりかけた泣き、が、

ぶり返した。


「同情されると泣きたくなる」



とは、このことだ。





家に着くとすぐに出発した。