【黒猫ダッシュ】






定食屋で晩飯を食べた帰りだったろうか?

家の近所を、自分と、弟と、弟の友人の3人で歩いていた。

弟は上京したばかりで、オレの家に住んでいて、

そこに弟の友人が遊びに来た時の事だ。

騒がしい幹線道路から、内側にちょっと入っただけで、

道はウソのように静かになる。

電信柱の外灯が並び、道の向こうまで順々に照らしていた。

するとだ!

いきなり猛ダッシュの弟の友人、何じゃ!?と目で構えると、

一匹の黒猫が反転の横っ飛びで、道の先に逃げていくのが見えた。

一瞬の間の後、弟が爆笑しだしたから、オレもすぐに理解した。

彼は、一匹の黒猫が3人の目の前を横切るのを見るやいなや、

それを阻止する為、猛ダッシュしたのだ。

全くの冗談だと思うが、冗談でも、彼に黒猫の横切りが、

多少引っかかっているのがおもしろかった。




迷信やゲン担ぎは自分には無いような気がしていた。

だが、よく考えると結構ある。

夜、爪を切らない。

まあ切るけど、切りながら多少心に引っかかるのは、

小さい頃から言われている迷信が影響している。

新しい靴は夜に下ろさない。

幼稚園の頃、買ってもらった靴を、夜履いて外に出ようとすると、

父親に「下ろすなら足裏に墨を塗れ」と言われた。

そんなの面倒くさいからもちろんやってないが、今でもそれが残っていて、

夜には新しい靴は下ろさない。

ライブ前のゲン担ぎも、考えてみると結構ある。

東京でライブがある時、家を出る前にブルースリーの映画を見るのは、

立派なゲン担ぎだった。

たまにマイケルジャクソンの時もある。

ライブの時の下着も、いつの頃からか、なるべく赤い下着を着だした。

考えれば、ギターウルフの初期の頃は、他にも多少あった気がするが、

その後の怒濤の海外ツアーで、担ぐ暇も余裕もなくなり、大部分は

どっかに吹き飛んでしまった。

あるスポーツ選手の談話で、ゲン担ぎをするとそれが出来なかった時に

気になるので、ゲン担ぎをしないと言うのを読んだ事がある。

その時は、なるほど、そういうもんだろうと思ったが、

今こうして、自分も結構ゲン担ぎをしている事に気がつくと、

なんのなんの、ゲン担ぎなんてしゃれだよしゃれ、

出来なきゃ出来ないでそれでもいい、

「いちいち気にすんな!」と言ってあげたい。

意外と信じている迷信、そしてやっていたゲン担ぎ、

根拠はなくとも、信じたりすると、気持ちに彩りが増えて

まあまあ楽しいかもしれない。




ところでだ、道を歩けばやっぱり黒猫はよく横切る。

あの日以来、たまに、面白がってダッシュする。

しかし阻止の確率が低く、少し悔しい。

もともと黒猫は、信じている迷信の部類には入ってなかった。

だが、阻止に失敗するのを繰り返すと、ほんのちょっとだけ

不吉な物を感じる。

ん!?待てよ、今自分の気持ちをふと聞いてしまったが、

気持ちの彩りが増えてまあまあ楽しいとは違うゾ。

なんだよ、言ってる事と、感じることが違うじゃないか。

「いちいち気にすんな!」逆に誰かにガツンとかまされそうだ。

う~ん、これが迷信の怖さかもしれない。

だとしたら、そこいら中走っているクロネコヤマトはどうするんだよ。

ダッシュ力をもっと磨かなければ追っつかねえゼ!