【ソウルミステリー】



目を覚ますと、部屋のカーテンは開いていた。

たぶんもうお昼くらいだ。

夕べは良く飲んだ、喉が渇いた、何か飲みたい。

とりあえず部屋を出て、エレベーターで一階に降りた。

ビルを出るといきなり繁華街で、陽が高く、少し頭がクラっとした。

角に見えるコンビニまで歩く。

ショーウインドーに飾られたマネキン、街を歩く女の子達、

渋谷や新宿でよく見る風景だが、何かが少し違う。

そう、ここは韓国だ。




20064月、韓国で初めてライブをする為にやって来た。

前日にやってきて、夜、お酒を飲み、主催者の友人のマンションに

泊まった。

今考えれば、おしゃれなショーウインドーが並ぶビルの一角にある

マンションで結構なお金持ちに違いなかった。

お酒が残った頭で起きて街を歩くと、少し戸惑った。

明らかに韓国らしい場所なら、そんな風にはならなかっただろう。

ウルトラセブンに、【第四惑星の悪夢】という話がある。

ロケットで地球に戻ってきたと思ったら、

そこは地球そっくりの別の惑星だったという話だ。

その時、まるでそういう気分を味わった。




韓国には、もっとさかのぼった時期に一度来ている。

ソウルオリンピックが始まる一週間前だった。

当時の革ジャン屋の仕事で、韓国の革を求める用で来た。

初めての海外だった。

なのでいろいろ珍しく、飛行機が高度を下げ出すと窓の外に見入った。

そこには日本と変わらない田舎の田園風景があり、

でもしかし、あそこに住む人達は、言葉も、受けた教育も全然違う。

そう思うと何か奇妙で不思議な気がした。




ソウルオリンピックの頃に比べると、日本と韓国は、町並みも人の顔も

ずいぶん似てきているようだ。

あの頃はまだ、町にはそれほど近代的な印象は受けなかった。

でもさすがにオリンピック一週間前、みんな熱く沸いていて、

そして、みんな優しかった。

もう一つ、今と際だって違うように思えるのが男だ。

今で言う韓流スターのようなイケメンは見かけず、

兵隊のようないかつい男が多かったように思う。

オレはその事に、硬派的なイメージを受けた。

先週も韓国を訪れた。

オリンピックの頃は、日本人と韓国人は雰囲気ですぐ違いがわかったが、

今じゃあ、あまりわからない。

その韓国の連中と、ライブ後、町の焼き肉屋にしけ込んだ。

韓国の飲み屋街は、日本より少し照明が暗く、それがずっと向こうまで

続く通りをふと眺めると、その上には薄い墨のような夜空に月がなじみ、

何となく幻想的だ。

その雰囲気の中で飲む酒に、オレはいつもしたたか酔ってしまう。

自分の心に何のわだかまりはないし、相手の心もそうだ。

アルコールが入れば酔っ払う、同じ人間だ。

でも、二つの国は、確かに何かが違う。

でっかい問題もある。

ちょっと違うだろうと思う事もある。

だが、こうして飲んでいると、そんな事どうでもいい。

いろんな問題が、まるでなくなる夜、それがソウルミステリーだ。

友達になるというミステリーが起こしてくれる奇跡を信じたい。