【瘡蓋未来】
  カサブタミライ



ある冬の校庭の一画で、体操着の子ども達が体育座りで整列をしている
その前に立ち、男の先生が何か話をしていた。
遠く端っこに古い体育館が大きく見えるだだっ広い校庭の真上からは、

風がピューッと斜めに吹き降りていて、それがさっきから先生の髪を横になびかせている。

先生の話も風に吹かれてきれぎれに飛んでくるので、後ろの方に座って
いたオレはうつむいて、目の前にある膝小僧を右の中指の爪で
カリカリかいていた。
瘡蓋だ。

これを剥がすと痛い。

遊んでいる時よくひっかけて、一瞬「痛!」となりそこから汁が出たり

する。なので最初は用心したが、指の腹でなでたりしていると、

ザラザラ固く感触が気持ちいい、その模様は血が噴き出して固まり、

ちょっとした溶岩が流れた跡のようだ。

よく見ると、皮膚との間に微妙な隙間が出来ていた。

その隙間にそおっと小指の爪を入れてみた。

なんだかメリメリ剥がれていく気がして、さらに剥がすと、

あれ!?痛くないかも。

するとパカッと取れた。

剥がれた跡を見ると下には真っさらな白い皮膚があった。

怪我はこうして再生するのかとその時初めて知った。

 


中学の時、卒業の数ヶ月前に仲良かった友人とケンカした。

不穏な空気が流れ、終いには殴り合いの果たし合いでも起きそうになった

が、無事に二人は卒業した。

それ以来ずっとそのままになっている。

先日田舎で昔の友人の集まりに行った。

入口で自分の名札と参加者の名前が記された座席表をもらった。

「やあ!」と懐かしい顔に挨拶しつつ座席表を眺めると...ある!彼の名が。

周りで談笑する輪の外に目を懲らし確かめると、いた!たぶん彼だ。

オレはすぐさま歩み寄り握手を求めた。

みずみずしい気分になり、真正面で目を合わすと彼もすかさず
握手に応じてくれた。

久しぶりの対面に感情がせり出してきて、彼の中学時代の呼び名を叫ぶように口にだした。

すると、ん!?

空気が少し変わり、彼はキョトンとしている。

その直後、「なんか勘違いしちょーへん?」とは、目の前の彼の言葉だ。

名字は同じだが、彼ではなかった。

確かに握手した時、随分顔が変わったなあと思ってはいたが。

ハハ、完全にオレの勇み足、だがあの瞬間、心の中に小さく張り付いて

いた固い何かがポロっと剥がれた。

彼への挨拶はいつかの次回に期待しよう。

 


先生の号令で、子ども達は立ち上がり、

指で瘡蓋をつまんだまま、お尻の泥をパンパン両手ではらった。

空からの風が目の前を吹き、体育帽からでている髪を凪ぐ。

目をこすりこすりしながら瘡蓋をポケットにしまった。

「また破けたりしないかな?」

膝小僧に現れたまだ弱々しい赤ちゃん肌を少しなでて、

進む先生の元に駆けていった。