【JET神社JET初詣】

 

 

大晦日から元旦の夜空を見上げた。

オレの家は9階でベランダがまあまあ広い。

東京はネオンが静かで上には星がきらめいていた。

月光がまぶたに刺さりそうなくらい輝いている。

今年はコロナの影響で島根に帰ることをあきらめた。

いつもならこの時間は実家の車を走らせ、宍道湖沿いの国道をまばらに走る光の点の一つとなって八重垣さんに向かっている頃だ。

冬の宍道湖は波が高い。

ハンドルを握りながら闇を見透かせば、ただ黒い波が打ち寄せているだけだが、「やっぱ宍道湖はいいなあ~」なんてつぶやいているだろうなあと、想像してみたが、まあこういう年もあるかと思い返した。

それならば今年はと、ちょっくらカワサキZⅡ750で宇宙に飛び出した。

ブオ~ンーーーと一発!アクセルかまして、まずは大気圏。

遠くなる東京の夜景を下に見ながら、「さっきの夜空にいるんだゼ!ざまあみさらせ!」なんて心で叫び、おらあ!もういっちょ!アクセルをふかそうとしたその瞬間だった、銀の物体がいきなり目の前に現れ、あわや正面衝突!

「やばっ!」間髪ハンドルを切りさらに逆ハンを切る。

「あぶねえじゃねえかバカヤロー!」と振り返るとアダムスキー型のUFOだったので、この野郎!と睨みを利かせると丸い窓から宇宙人がペコペコしていたから「フン!」と顎をしゃくって、再びアクセルをふかした。

ブギャブギャブギャ~ン!いきなり何億光年、アンドロメダを突き抜けて、乙女座の巨大恒星スピカを通り過ぎる。太陽の1万倍の光はあまりに強烈だ、まともに見ると目がやられる。地球から遠く離れたこの場所で、青白い光の中心部では絶えず核融合反応が起き、膨大なエネルギーを発し続けている。

「相変わらず過激に光ってんなあ~」

人間が太陽に生かされているように、この辺りの命を生かしているのだろう。

 

 

さらに走ると、やぎ座α流星群の一つの赤い流星が前を飛んでいたので、追いつきながら飛行機が滑走路に降り立つ要領でバイクを接岸させた。

流星の大きさは淡路島くらいだろうか?

空には赤い煙がもうもうと後ろに向かって流れている。

すると地平線の向こうから白い仮面の騎士隊があらわれ音もなく駆け上がってくる。何だ!?と目を凝らすとその前には山羊飼いの少女がたくさんの山羊と共にこちらに逃げてくる。

これは助けてあげなければとバイクで群れに突っ込みつつ直前で迂回して騎士と少女達の間に入り、丁度迎撃する形で走ると、騎士たちはまるで紙のトランプのようにバタバタと倒れ、しまいには全員が一つの箱に収まるがごとく一直線に空のかなたに飛んで行った。

振り返ると少女は興奮している山羊を優しくなだめていた。

この流星の山羊はみな顔が鏡になっていて首が激しく動くたびに光が反射してまともに見られない。すると少女が無言で山羊のミルクをコップに入れて持ってきてくれた。

「これは丁度よかった、のどが渇いていたんだ」と受け取りながら少女を見ると、三角頭巾を深くかぶった彼女の顔も鏡で、彼女を見るオレの顔が映っていた。

「ありがとう、とても美味しかったよ」コップを返し再びバイクを走らせる。

 

 

ブギャブギャブギャ~ン!さらに何億光年、マゼラン・わし星雲を次々と突き抜けて、アッという間に宇宙の果てまでやってきた。

宇宙はいまだに膨張をし続けている。

その膨張に張り付くかのように鳥居が浮かぶ。

オレは後輪のブレーキを思いっきりロックしながら鳥居にギュギュ~ンと横付けして、宇宙空間にZⅡを停めた。鳥居の正面には額があり「JET神社」と書かれている。柏手を二拍パンパンと宇宙空間に響かせた時だった。

ピュン!弦を離れた矢のような音、ブス!うっ、見ると矢がオレの心臓をつらぬいていた。

血がドクドク!ギョロリとあたりを見回すと、鳥居の柱の横から、宇宙人ガールがにゅっと顔を出した。手には弓がぶら下がっている。

「ステラ!お前!」以前ここで会った女の子だ。

彼女はおうし座プレアデス星団のメローペという星に住んでいるが、毎年この時期にここで巫女をやっている。

「お前なぜオレの命を!」オレはそのまま倒れこんだが、このまま死んでたまるかとZⅡの真下に潜り込む。宇宙を走ってきたZⅡエンジンは火傷するくらい熱い。その熱で血を固めようと血が出る胸をエンジンに近づけると血が止まった。するりとZⅡの下から抜け出て、すくっと立ち上がり胸の矢をポキリと折った。今抜いたらまた血が噴き出すだろう。

彼女の瞳はじっとオレを見つめたままだ。

彼女はブルーの皮膚に長い黒髪と赤いガラスのような眼を持っている。

「あんたに私の身代わりになってもらおうと思った」

「何!?どういうことだ!」

聞くと、この宇宙を支配する宇宙大魔王がステラの命とこの宇宙を取り換えると言ったらしい、もしそれがいやならここにやってくる生物の命を差し出せば助けてやるという。

なるほど「それでオレを狙ったのか!」

「まさかあんたが来るとは思ってなかったよ」

その時だった!

時空がグニャリと突然ゆがみだし、シャーっとミキサーのような音が鳴り響きだす。

何だ!と思いステラの手をつかんだ途端、足元の宇宙が渦を巻き、アッという間にZⅡもろとも奈落に落とされるが如くその渦に吸い込まれていった。刹那!上を見ると渦の上には鳥居が見下すように立ちその上空に黒い何者かが見えた。

遂に一貫の終わり、これもすべて島根に帰れなかったコロナのせいだと頭をよぎった瞬間だ。目の前にエンブレム登場!そうKAWASAKI!

すかさずタンクに抱き付き、がに股でかろうじてシートをまたいだ。

おっしゃあ!ブオ~ン!アクセルをふかす、ステラはオレの腰にしっかりつかまっている。

うおおおおおおおおおおおおおおおーーーー!

「セイジ!こんなブラックホールのような渦から抜け出せるわけないわ!」

「大丈夫だ、何億光年をひとっ飛びのZⅡだ。」

「無理に決まってる!」

「最初から無理なんて言うな!カワサキを信じろ!」

うおおおおおおおおおおおおおおおーーーー!

ゆっくりZⅡが渦を逆行する。DOHCのエンジンが悲鳴を上げる。

ブチブチブパチ~ンとエンジンから火花が出だした瞬間だ。

「あそこだ!」渦のセンターに向かってジリジリ体幹を使って移動した瞬間、スポ~ン!

一気に渦を抜けて跳ね上がった!

思った通りだ、渦のセンター部分だけ無風状態になっている。

っと安心したのも束の間、体制を崩したステラが再び渦に落ちていった。

「ステラ!」と叫んだ時だった。

「待てい!」

宇宙の果ての向こうから巨大な声がした。

ステラが言っていた宇宙大魔王か。

「この宇宙はもう瀕死の状態だ。間もなく死ぬだろう。

新しく再生するには命が一つ必要だ」

そんな事を言ったってこのままのこのこ帰れるか!

オレは再び渦に飛び込んだ!

ブギャブギャブギャ~ン!

どのくらい走ったろう、いや渦に吞み込まれたまま進んでいると言う方が正しい。

ステラを完全に見失った。

もう何が何だかわからなくなり、半分意識を失いかけていた。

すると突然、穴から吐き出されるように、宇宙空間に放り出された。

放り出された方を振り返ると、宇宙空間で巨大な穴が閉じようとしているところだった。

ホワイトホール!

落ちた渦はやはりブラックホールだったのだ。

その逆のホワイトホールからオレは飛び出した。

ブラックホールとホワイトホールは、同じ宇宙内にできる場合もあるが、

それより全く違う宇宙と宇宙をつなぐことが多い。

とすると今いる宇宙は元旦に飛び出した宇宙とは違う宇宙なのか?

ステラの命が作った宇宙!?

 

 

昼過ぎにガチャ、一階のポストを開けると年賀状が届いていた。

手に取り見ると記憶にある知り合いの名前や親戚ばかりだ。

その年賀状の束を持ったまま、裏手のZⅡが置いてある場所に行くと、

鍵もかけずシートも被せないままの野ざらし状態で置いてあった。

今朝早く、宇宙から戻って来た時にはさすがに疲れていて、ZⅡを停めるのが精いっぱいで朦朧としたまま9階の自分の部屋に戻りベッドに倒れこんだ。

「ありがとう、元旦早々よく走ってくれたな」

改めて鍵をかけ、シートを丁寧に被せて、上から軽くZⅡをなでた。

まあ、とりあえず世界が去年と特に変わっているようではなさそうだ。

相変わらずコロナはやっかいだが。

2021年も、元気に生きていこう!

もうさんざん言っているけど、改めて。

「明けましておめでとう!今年もヨロシク!」