どうか私の手紙に気づいて‥
そして王妃を、王様を‥
私達の大切なあの人を救けて‥
ウンスはフィルムケースを岩の隙間へと転がすと
大きめの石を、その隙間を埋めるように動かした
--あと‥私に出来ることは何だろう?
フィルムケースはもうない‥
もう一度あの村へ戻って、お寺で診療を続けようか‥
何も出来ないと思っていたけど、医者としてまだ出来ることはある‥
ウンスは、以前チェ・ヨンと歩いた道を、また天門のある地へと向かって歩き出した
--あの人とこの道を歩いてるとき‥
立ち寄った村で王妃さまの訃報を聞いて‥
私が引き返して、と言っても頑なに足を止めず
天門のある村へ着いた時には、あの人の目は昏く沈んでいて‥
--だめ、この人にこんな顔をさせちゃ‥だめ
こんな状態のこの人を置いて現代へなんて帰れやしない。でも私がこの人に何が出来ると言うのだろう
『イムジャ、イムジャはこんな血なまぐさい場所に居る人ではない、あの夜でも明るい天界こそが貴女の居場所なのだ』と言うと私を天門へといざなった
--天門を抜けて現代へと戻った私の心を占めるのは、あの人のことばかり‥
--でも今の私に何が出来る?
---そうよ!
現代の医術で王妃を救えばいい、あの日より前の時間に戻れば‥!
--そうして、戻れたと思ったら100年前なんて‥
ウンスは、旅の始まりの村へと足を踏み入れた
『先生、おかえり!』子供たちが何人か集まり
ウンスへてんでばらばらに声を掛ける。
旅はどうだったか、何か土産はないのか、そんななか‥
『先生、あの祠がなんか変なんだ』
ウンスが天門へと急ぐと、異変はすぐしれた
突風がウンスの髪を舞い上げると、天門へと吸い込まれていった
--私は‥‥どこへ行くんだろう?
あの人の元へ戻れたら‥生きる気力に満ち溢れたあの人の元へ‥
先生?どこへ行くの!?
子供たちの声が遠ざかり、ウンスは気づくとまた
夜の奉恩寺の弥勒菩薩の下に居た
--またここに帰ってきたのね‥
あの人が居ないここに‥
未来の私は、ちゃんとあの手紙を読んでくれたかしら‥あの人の笑顔は‥
ウンスは居てもたっても居られず
奉恩寺の前でタクシーを拾い、行き先を麻浦区の〘崔螢祠堂〙と告げると還暦近いタクシーの運転手は
「誰だい?それは。誰のお墓なんだい?」という。
では恭愍王祠堂は?と尋ねると
「ああ、そこなら知ってるさ。ドラマの『シンドン』に出てくる高麗の最後の良い王様だね」
ウンスはタクシーを断り降りると、力なく また奉恩寺の弥勒菩薩へと向かう
---どういうこと?‥各地に祠堂があるチェ·ヨンを知らないなんて‥歴史が変わってる?
恭愍王の名が知られているなら王妃さまは無事だってこと?わからない‥
私がしたことは‥… 何も意味が無かった?
「如何なさいました?お体の具合でも?」
ウンスが振り向くとひとりの僧が心配そうに立っていた
ウンスはポツリと呟く
「‥何も出来ない無力な自分が嫌で‥」
僧は静かに
「何も出来ない‥と嘆くのはまだ早くありませんか?出来ることはまだありませんか?水滴石穿と言います。一粒の雨垂れは、何度も何度も落ちるうちに、いつか硬い石に穴を開けるのです‥」
−−できること‥
考えてウンス、私に何が出来るの‥?
ウンスは、僧にお辞儀をすると足早に弥勒菩薩へと向かう
弥勒菩薩の下の天門は、ウンスを待っていたかのように煌々と渦巻いていた
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この主役のウンスは、私が『亡霊ウンス』←ヒデェ
と呼んでいる19話の終わりに出てくる
過去のウンスです。
長くなったので、わけます。