久しぶりに実務的な話をします。

 

特許権の侵害となるか否かについては(間接侵害を抜きとして)、問題になっている物が、特許になっている発明(以下「特許発明」)の構成要件を全て備えているかによって判断します。

たとえば、特許発明がa+b+cからなり、実施品がa+b+c+dの場合は、原則、侵害になります。

 

もう少し具体的には、本体と芯とバネからなるボールペンに特許がされているとすれば、本体と芯とバネと消しゴムによって消えるインクを含んだボールペンは、本体と芯とバネと言う特許発明の構成を含んでいるので、原則的に侵害になります。

 

このように、機械品であれば、特許になる構成が、その物の主機能のために必要になって来ることが多いので、たとえ他の要素がくっついていたとしても、侵害になることは想定しやすいと思います。

 

しかし、化学品ではどうでしょうか。

 

たとえば、a、b、cの三成分を含むフィルムに特許がされているとしましょう。

この場合は、フィルムのほぼ全成分が、この三成分からなるとしましょう。そうすると、このフィルムは、当然、これらが無いと所望の効果が発揮できない訳です。

 

一方で、dと言う成分を含んでいて、似たような効果があるフィルムがあったとしましょう。

つまり、このフィルムは、dを多く含んでいて、それにより所望の効果が得られている訳です。なお、このd成分は、上述の特許発明には入っていません。

 

このケースで、たまたま補助剤のような形で、上述の三成分を含んでいた場合に、原則論を適用して特許権侵害とするのは、どうでしょうか。

 

化学品の場合、構造そのものに特徴がある訳ではない一方、世の中には様々な成分が存在し、それを如何様にも組み合わせて得ることができます。

そうした際に、a、b、cそれ自体は、いずれも公知の(新しくない)成分であった場合に、これを、たまたま別目的で少し含んでいたことで、特許権の侵害となるのでは、その特許発明に過大な強い権利を与えることになってしまうように思います。

 

しかも、「a、b、cの三成分」と書きましたが、その書類(明細書)の中に、実験例としてa1、b1、c1(いずれもa、b、cのそれぞれ一部)の例しかない一方で、上述のd成分を含むものでは、a2、b2、c2であった場合は、尚更だと思います。

 

因みに、化学品については、有機的一体性を欠く場合には、特許発明の構成要件を全部備えていても侵害とならない旨の判決例もあります。

http://imaokapat.biz/hanrei/hanrei-ryaku/jirei-r(100-199)/jirei113-r.html

もっとも、この判決例は、古く、しかも製造方法の例なので、物には、そのまま適用できないような感がありますが。

 

ともあれ、化学品の場合、その成分があったからと言って、主機能を果たすとは限らないケースが少なくなく、特許発明の構成要件が全部あれば侵害となると言う、原則論が成り立ちにくいように感じます。