「…………」
……ソイツと目が合った。


たくさんの紆余曲折を経て、それはもう、ありとあらゆる手段を使った末にキョーコと恋人としての交際が始まって半年。
付き合い始めた頃は、抱き締めることにもキスをすることにも恥ずかしがって緊張して。カチカチに固まっていた彼女も、少しずつスキンシップに慣れてくれた。
付き合って3ヶ月もする頃には、肌を重ねることもでき、交際は順調だ。


明日は久し振りにキョーコとオフが重なるという今夜、彼女の手料理を囲んで穏やかな一時をすごした。
食後のコーヒーを一緒に飲んでいると、ふとした瞬間に目が合って、会話が止まる。どちらからともなく唇を重ねた。
少しずつ接吻を深くしてソファに押し倒そうとしたが、シャワーを浴びてからと彼女が浴室に駆け込んでしまった。


俺もトレーニングルームのシャワーを使うべくリビングを出ようとすると、キョーコの鞄が倒れて中身が出てきてしまっているのを見つけた。
近寄って鞄を直そうと持ち上げたとき、ゴロンッと落ちた物に目をみはった。

「?!」

足元に転がってきたのは、あまりにもリアルな自分の人形。
何年か前、キョーコがマリアちゃんにプレゼントしているのを見たことがあるが、さらにパワーアップしている気がする。肌の質感、髪質、何から何まで本物そっくりだ。この服は先月のアルマンディのショーで着た物だ。海外でのショーだったし、キョーコは見ていない筈なのに。
彼女が器用なのは勿論知っているけど、あまりの精巧さには愛しい彼女とはいえ、ちょっと退いてしまう……。


この人形、キョーコは何時も持ち歩いているのか?
そうだとしたら、…………この人形は、俺の知らない彼女を知っているのか。

彼女のプライベートルームでの様子を、コイツは知っているというのか?
度々肌を重ね、大人の付き合いをするようになっても、彼女は恥ずかしがって俺の前で着替えたりしない。
コイツは彼女の着替えも見ているのか!?
彼女のベッドで寝たりしているのか?
心なしか人形がニヤリとしたような気がした。

(ムカッ)

心が狭いのは承知の上。つい、人形の頬をつまんでしまう。
「痛っ」
なんだか一瞬自分の頬が痛かったのは気のせいか?

まあいい。
何時も一緒にいるコイツも、俺のベッドの中での最高に可愛くて、艶やかな彼女の様子は知るまい。

我ながら人形に張り合うのは情けないと思うが、少しの優越感を感じながら人形を鞄の奥底にしまい込んだ。


彼女の、自分しか知らない姿を堪能すべく、やっぱり一緒入ろうと思い、バスルームに向かった。



∞∞∞∞***∞∞∞∞

人形にすら嫉妬する蓮さん。
このあと、キョーコちゃん人形を作ってもらおうとお願いしてたらいいなぁ。