「そう、ついに付き合い始めたのね」

 

とうとう手段を選んでいられなくなった蓮が、正直正攻法とは言い難いような小賢しい手を使って見事キョーコちゃんの恋人の座を手に入れた。

社長からは二人の交際は認めるが公表はまだ早いとの事で、世間的には秘密の恋人として交際をはじめることとなった。 

そんな二人に、彼女の親友である琴南さんの協力は必要不可欠。

今日はラブミー部室にいる彼女の元へ、交際の報告に伺った次第だ。

 

「うん」

 

「よかったわね」

 

「ありがとう」

 

恥ずかしそうに、そして琴南さんの反応を気にして緊張した様子で報告したキョーコちゃんは、琴南さんの笑顔とその一言で一気に顔を綻ばせた。

 

あ~あ蓮の奴、キョーコちゃんのキューティーハニースマイルを見て固まっちゃってるよ。

あの無表情仮面の下で、決して『敦賀蓮』ファンにには見せられないようなことを考えてるんだろうな…。

 

 

「そういう訳だから琴南さん。これからもラブミー部室には頻繁にお邪魔するけどよろしくね?」

 

蓮の奴、暗に逢引の邪魔するなってことを言いたいんだな。

交際が公に出来ない分、ここでの逢瀬がとても貴重なモノになることは予想に難くないけど。

 

あ…琴南さんの綺麗な額に青筋…。

イラッとしたんだ…。

 

「キョーコに彼氏…寂しくなるわ…きっと私の事なんて忘れちゃうのね」

 

突然琴南さんの瞳から、ポロポロと涙が零れた。

 

「ま、まさか!!何があったってモー子さんが一番大切よ!何事においても私はモー子さんを一番に考え、最優先にすることをここに誓うわ!!」

 

慌てて琴南さんの腕に縋りつくキョーコちゃん。

 

ーニヤリ

 

演技だ!!

キョーコちゃんはもちろんのこと、琴南さんもこれからのLMEを背負って立つほどの看板女優になる逸材。

流石だなぁ、琴南さん。

 

そう感心していると、なんだか背筋を冷気が駆け抜ける。 

 

「キョオコ…?」

 

「ひぃぃっ」

 

出た…

闇の国の魔王様…。

 

「キョーコ?それはどういうこと?」

 

「あ、あのあのあの…」

 

「あら、どうしたのキョーコ?顔色が悪いわよ?」

 

2人に詰め寄られ、半ばパニックに陥るキョーコちゃん。

そんな彼女の肩を見せつけるように抱き寄せ、蓮がちっとも小さくない声で囁いた。

 

「キョーコ大丈夫?昨夜無理させちゃったかな?」

 

「………」

 

(お前、キョーコちゃんに何したんだよっ)

 

「ナニって…聞きたいですか?」

 

ひいっ心を読まれた!

声に出さなかったのに、返事が返ってきた!

俺は全力で首を左右に振った。

 

「ほらキョーコ。琴南さんも忙しいみたいだしそろそろ帰ろう?さっきの事、じっくり聞きたいしね…」

 

そう言って蓮がキョーコちゃんの荷物を肩に担ぐ様子に、琴南さんがため息をついて声を掛ける。

 

「キョーコ、私のことは気にしないで。敦賀さんと末永くお幸せにね」

 

「ありがとう琴南さん。お言葉に甘えてキョーコの第一優先は俺がいただくね」

 

蓮が爽やかな極上笑顔を向けても、琴南さんはビクともしない。

さすがラブミー部員。

 

「どうぞどうぞ。とっとと仲良くお帰りください」

 

「それじゃあ、お疲れ様でした」

 

「い〜や〜!!モー子さぁ〜〜ん」

 

蓮に抱えられて遠ざかるキョーコちゃんの声。

 

 

「こ、今度、キョーコちゃんにおすすめの胃薬でも教えてあげようかな…」

 

「その前に、あの色ボケ俳優をなんとか正気に戻らせてくださいね」

 

何となく場の空気を持たせるために言った一言に、痛烈なツッコミが入った。

 

琴南さん。

厳しいな…。

 

 





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