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小説家×アシスタント





海沿いの小さな町。

潮風を感じながら自転車を走らせること20分。

辿り着いた先は一軒の古民家。

古い建物ながら、手入れの行き届いたその家の軒先に自転車を止める。 

 

「先生、おはようございます」

 

ガラリと引き戸を開けながら、奥にいるであろう家主に声を掛け、勝手知ったる勢いで中へと上がった。

空気を入れ替えるために家じゅうの窓を開けると、潮風と一緒に波の音が家の中にまで届く。

 

パタパタと家の中を駆けまわりながら家主が過ごしやすい環境を整えていると、奥の書斎からのそのそと人影が現れる。 

 

「おはようございます!」

 

「おはよう最上さん。今日も朝から元気だね」

 

「きゃあっ」

 

寝間着替わりの浴衣を肌蹴させたまま、眠そうに欠伸をしながら居間へと入ってきた先生の姿に、つい声を上げてしまった。

 

「せ、先生っ」

 

大きく開いた襟元から見える、形のいい鎖骨。

その先に続く厚く鍛えられた胸板に、頬が熱くなるのがわかり目を逸らす。

 

「あ、あぁごめん。でも…」

 

口では謝っていても、直す素振りすら見せずに、それどころかわざと見せつけるかのように艶を含んだ表情で顔を近づけてくる。

 

ゆ、昨夜はあまりお休みになっていないんですか?

 

あまりの色香に中てられて、うまく言葉を紡ぐのでさえ苦労する。

 

「うん。なかなか納得のいく表現が見つからないところがあってね」

 

「それにしても、書斎でお休みになるなんてゆっくり休めないんじゃ…」

 

「心配してくれてありがとう。でも…」

 

着崩れた浴衣の隙間から覗く鍛え上げられた厚い胸板。

そこから香る咽るような甘い香り。

 

「隣に君がいなかったから」

 

「っ!!」

 

爽やかな朝日の中にいて、夜の空気を纏う艶やかな彼の姿に、身体の奥に潜んでいた熱が騒ぎ出す。

気が付いた時には彼の長くしなやかな腕の中。 

波の音はいつしか遠のき、耳元に寄せられた彼の唇から零れる吐息のような声しか聞こえない。

 

「先生っ、朝ごはん…」

 

「あとでいいよ。それより…」

 

蕩ける頭を振り絞って抵抗しても、彼には敵わない。 

 

「君をゆっくり味わいたい…」

 

熱い吐息とともに耳を擽る先生の舌先。

 

「あ、朝から破廉恥です」

 

私に言えるのはそれが精一杯だった。

 

力の抜けた私の身体を軽々と抱き上げた先生は、寝室へと続く廊下と歩を進め、二人だけの秘め事を隠すように襖を閉めた。