ギリ……
アウトですね!(´Д`;)

遅刻しましたが、お許しを~
m(u_u)m



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ハロウィンナイト  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

小学生の頃、外国から来たお客様に教えてもらったハロウィンの言い伝え。 

 

『ハロウィンの夜、靴をT字の形に脱いで歌を歌いながら後ろ向きでベッドに入ると、将来の旦那様の夢を見ることができるのよ』

 

その話を聞いた夜は、スリッパをT字の形に脱いで歌を口ずさみながら大好きなショーちゃんが夢に出てきてくれることを祈って布団に入った。

 

 

☆☆☆ 

 

「へぇ。ハロウィンにはそんな言い伝えがあるんだねぇ」

 

最上さんの博識に感心する社さん。 

 

「他にも、『真夜中にリンゴを食べて鏡をのぞくと、将来の伴侶の顔が映る』とか、『ハロウィンの晩に畑の出て若者小道に種か灰をまいて歩き、その後をついてくる女の子がいたら、その娘は将来の花嫁になる』とか…」

 

すらすらとハロウィンの知識を披露しながらも、てきぱきと社さんに衣装を手渡す最上さん。

 

今日は10月31日。

お祭りコスプレを愛する社長が黙っている訳がない。 

今夜は都内の高級ホテルを貸し切って、所属芸能人も社員も全員強制参加のハロウィンパーティが開催される。

パーティの衣装を担当するラブミー部には朝から所属のタレントや俳優、社員までもが訪れ、彼女たちは大忙しだ、

 

まずは衣装を手渡された社さんが、俺と入れ替わりで奥の着替えブースに入る。

 

「さぁでは、敦賀さんのメイクをしますねっ」

 

俺は衣装よりもメイクが重要らしく、最上さんが俺にメイクを施してくれるらしい。

 

「最上さんがメイクしてくれるの?」

 

「はいっ。もうメイクさん達もパーティ会場に行ってしまいましたし」

 

時刻はもう21時。

普段に比べ随分と早く切り上げたスケジュールも、世間からしてみれば大分遅い時間だ。

 

「こんな遅くまでごめんね最上さん」

 

「いいえとんでもない!敦賀さんこそお疲れではないですか?

 

自分のことよりも俺の体調を気遣ってくれる最上さん。 

たとえそこに俺が願うような感情がなかったとしても、俺を見上げて微笑む最上さんが傍にいてくれるだけで疲れが吹き飛ぶ。

 

「うん大丈夫。最上さんの笑顔のおかげで元気になったよ」

 

「ふふふ。敦賀さんたら、イチ後輩の私にまでお気遣いくださってありがとうございます」

 

些細なアピールくらいじゃ最上さんに通じないことは百も承知だ。

辺りを見渡すと、いつの間にか部屋には俺と最上さんの二人きり。

 

椅子に腰かけた俺の前に、屈んだ最上さんが顔を寄せる。 

最上さんの合図で目を閉じ、メイクを施される。 

少しひんやりとした最上さんの細い指先が俺の顔に触れた。

直接素肌が触れ合うのは、彼女と兄弟を演じたあの時以来だ。

 

「なんだか…ヒール兄弟を演じていた頃を思い出しますね」

 

同じことを思い出していたから驚いた。

 

「この捲れた皮膚がヒラヒラしているところとか、傷跡とか…」

 

ハロウィンパーティの俺の衣装は警察官。

でも、メイクはゾンビだ。

俺に特殊メイク張りのゾンビメイクを施す最上さんは、皮膚の捲れた部分を指で触りながら楽しそうだ。

 

「あの時、確か写真撮ってたよね。今日も撮る?」

 

俺のメイクに夢中で顔を近づけたまま俺の顔に触れる最上さんとの距離に、思春期のように胸が高鳴る。 

 

「そういえば…」

 

これ以上近づかれたら俺の理性が危ない。

話題を変えようと話しの糸口を探す。

 

「ハロウィンの言い伝え…結局、将来のお婿さんの夢は見れたの?」

 

「あ~……」 

 

「最上さん?」

 

「夢は見たんです。でも…その人と結婚したりとか…ないと思います

 

寂しそうな…でもその男のことを思う最上さんの表情は、なにか愛おしいものを思い浮かべているようにも見えた。

 

聞かなきゃよかった。

 

例え夢の話だろうと、最上さんと誰か他の男の話なんて。 

きっと、聞いても聞かなくても後悔する。

 

「だって彼は…」

 

「キョーコ!そろそろ会場に向かわないと」

 

最上さんが夢の話を続けようとすると、部屋のドアが開いて女医さん姿の琴南さんが現れた。

 

「いやぁん!モー子さんっ素敵!知的!色っぽ~い!!」

 

駆け寄って抱きつこうとする最上さんを華麗に躱した琴南さんは、クールな表情のまま最上さんに紙袋を差し出した。 

 

「ほら、メイク終わったんならアンタも早く着替えなさい」 

 

「うんうん、急いで着替えるから一緒に会場に行こうねっ!」

 

嬉しそうな最上さんには返事をせずに、琴南さんは俺の顔を見つめた。 

 

「私は先に行くわ」

 

「えぇっ!?なんでぇ??」

 

悲しそうな最上さん。 

大親友の前ではこんなにも表情豊かなんだな。

そんなふうにのんびり二人のやり取りを見ていると、着替えブースから社さんが出てきた。 

 

「…キョーコちゃん、俺、本当にこの格好じゃなきゃいけないの?」

 

社さんは、犬の着ぐるみ姿だった。 

 

「社さん、似合ってますよ」

 

必死で笑いを堪えたが、社さんは誤魔化されない。 

 

「いっそ、思いっきり笑ってくれよ」

 

涙目な社さんに、つい全員で笑ってしまった。 

 

「それじゃぁ、私も着替えてきますね」

 

「最上さんも琴南さんも、車で会場まで送って行ってあげるよ」

 

「ほらキョーコ、先輩を待たせたら悪いから早く着替えなさい」

 

変わり身の早い琴南さんに急かされて、最上さんが着替えブースに入って行った。

 

 

 

「それで?キョーコちゃんはハロウィンの夜に誰の夢を見たんだ?」

 

「社さん、聞いてたんですか?」

 

「いや、でもメルヘン思考なキョーコちゃんのことだから、きっと実践したんだろうなって」

 

「なるほど。…夢はみたらしいですよ。でも、その人との結婚することはないって言ってました」

 

「ふぅん誰なんだろ…でも蓮、それなら一安心だな」

 

ぐふぐふと笑う社さんは、犬の着ぐるみより青いネコ型のロボの方がいいんじゃないか?

 

「モー子さぁん、ちょっと手伝ってぇ~」

 

最上さんの声が聞こえてきて、琴南さんがため息をつきながら着替えブースに向かう。 

暫くすると、最上さんが着替えを終えて戻ってきた。

 

「…っ!?」

 

「あ、あの…こんな恰好…私には…」

 

恥ずかしそうに短いスカートをぐいぐい下に引っ張りながらもじもじする最上さんに、思わず手が伸びるのを必死で堪えた。 

 

「あ、あの…やっぱり、ご不快ですか…?」

 

無表情で腕組みする俺に、最上さんが怯えてしまった。

 

「いや…かわいいよ」

 

口元を掌で覆って、そう言うのが精一杯だった。 

 

黒のビスチェと膝上20センチのミニスカートを纏った小悪魔最上さん。 

頭には小さな角がちょこんと乗っていて、そして何より…

 

(しっぽ…!!)

 

ミニスカートの後ろからゆらゆらと揺れる黒いしっぽがなんとも俺の欲を刺激する。

このままではまずい。 

 

「さぁ、そろそろパーティ会場に向かおうか」

 

皆を促して、駐車場へ向かった。

 

 

 

「ねぇキョーコ。さっきの言い伝えの話、結局誰の夢を見たの?」

 

さっきから気になっていたのか、移動の途中で琴南さんが最上さんに尋ねていた。

狭い車内。

聞きたくなくても聞こえてしまう。

 

 

「あ~あれ?う~ん…でも将来の旦那サマにはありえない人よ?だって…コーンは妖精だもの」

 

 

運転の途中、俺の口元が少しだけ綻んだのを知っているのは、隣に座っていた社さんだけだと思う。

 







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