≪追記≫

その5じゃなくて6でしたオロオロ(゚ロ゚;))((;゚ロ゚)オロオロ

こっそり訂正です。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

上司×部下

 

 

 

 

「敦賀主任、会議の資料を纏めました」

 

「ああ」

 

午後のプレゼンで使う資料が急遽差し替えになったのは今朝のこと。 

突然のことに部内が慌てざわつく中、資料制作に指名された私は朝から必死の作業でどうにか会議までに間に合わせた。 

自分史上最速のタイピングに酷使しすぎた脳と指はもうこれ以上ないくらいへとへとだけど、それにも勝る達成感でいっぱいだった。 

 

意気揚々と主任の座る席へ向かい資料を差し出すと、デスクのPCから目を離さないままに片手で資料を受け取った主任は、そのまま資料に目を通した。

 

「それじゃあこれ、30部コピーしてD会議室に持ってきて」

 

そう連絡事項だけを淡々と述べて、主任は席を立って出て行った。

 

 

「なにあの態度。労りの言葉もないわけ?」

 

隣の席の天宮さんが舌打ちしながら主任の背中を睨みつける。 

 

「でもカッコいいですよねぇ。敦賀主任。あの年で主任っていうのも大抜擢らしいですし」

 

そう言って目をハートに輝かせて語るのは向かいの席の愛華ちゃん。 

 

「そうは言っても性格が悪かったら問題外よっ」

 

辛口の天宮さんは、怒りに任せてバシバシとキーボードを打つ。

 

「え~、敦賀主任って誰にでも公平に優しくて温和で、春の陽だまりみたいだって言われてますよ?」

 

「じゃあ今のキョーコさんに対する態度はどう説明するのよ!?」

 

「確かにキョーコさんにはちょっとキツイかもしれませんねぇ…」

 

おしゃべりの間も誰一人として手を止めることなくキーボードを叩く。

事務職の社員の有能さもこの営業一課を支えている大きな要因だと思う。

 

例に洩れず、私も相槌をうちながら資料を束ねる手を止めない。 

 

「それじゃ、会議室へ行ってきます」 

 

トントンと印刷した書類を手早く揃え、周りに声を掛ける。 

 

「いってらっしゃ~い」

 

仲間たちに見送られながら、営業一課のオフィスを後にした。

 

 

 

 

ミーティングルームが並ぶフロアに降り、一番奥にあるD会議室へと先を急ぐ。 

B会議室の前を通りがかった時、急に扉が開き強い力で引き込まれた。 

 

「っ!!」

 

一瞬の恐怖に身が竦んだけれど、その後に包まれた爽やかなマリンの香りに強張った身体が弛緩していく。

 

「つ、敦賀主任っ」

 

「大きな声を出さないで」

 

抱きこまれたまま耳元で囁かれた声は、社内で話す彼の声よりもワントーン低く、そして甘い。

 

「もう、驚かさないでくださいっ!」

 

彼の胸の中から顔を上げ抗議をする間も、彼の手は私の腰のあたりを辿る。 

 

「今朝はあんまりキョーコを補充出来なかったからね」

 

悪戯っ子みたいな目で私を見つめ、唇を寄せてくる主任。

同時にさわさわと動く指先に、身体の奥で燻っていた僅かな熱が少しずつ大きくなる。

 

「社内でそんな顔しちゃダメだよ」

 

我慢できなくなる。

そう言って私の耳たぶに軽く歯を立て囁かれ、一気に体中の熱が燃え上がった。

 

「主任、会議…」

 

 

言いかけた言葉は、彼の唇に飲み込まれていった。

 

 




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