父親を食った僧
 
                                                                   ◇まゆつば国語教室 39

相変わらず万事に意欲低迷なう、であります "(-""-)"
とりあえず景気づけにブログを書いてみようかと……。
頭が働かないので、安直にいつもの「今昔物語集」から一つ。
 
有名な話はだいたい「本朝世俗部」というカテゴリーにあるのですが、今回は「本朝仏法部」であります。
善行やお経の功徳でいいことがあったとか、悪いことをしたから仏罰を受けたとか、そんな話ばかりなんだけど、それなりに面白いものもいくつかあって、今回は「父親を食ってしまった僧」のお話。
え?((゚m゚;)
 
 
由緒正しいのに、住職がだめだめで落ちぶれてしまったお寺が舞台です。
ある夜、浄覚という住職が夢を見た。
 
浄覚が夢に、死にたる父の別当(寺の責任者。住職)、きはめて老耄して、杖をつきて来て云はく、
「われは仏の物を誤用の罪に依りて、鯰の身を受けて、大きさ三尺ばかりにして、この寺の瓦の下になむ有るに、行くべき方も無く、水も少なく、狭く暗き所に有りて、苦く侘しき事限り無し。
 
寺の公金を横領したのか、仏具を売り払ったのか。
その罪で、死んだあとナマズに生まれ変わってしまったそうであります。
1メートルもの大ナマズで、寺の瓦の下(?)でつらい生活をしている。
 
しかるに、明後日の未時(ひつじどき。午後2時ごろ)に、大風吹きて、この寺倒れなむとす。
しかるに、寺倒れなば、われ地に落ちて、這ひ行かむに、童部(わらわべ)見て打ち殺してむ(きっと打ち殺すだろう)。
それを汝、童部に打たしめずして、桂河(桂川)に持ち行きて放つべし。
しからば、われ、大水に入りて、広き目を見、楽くなむ有るべき」
と告ぐと見て、夢覚めぬ。
 
あさって大風が吹いて、お堂が倒れる。おれは地面に落ちて、子供たちに打ち殺されるだろう。そうならないよう、桂川に持っていって放してくれ。
浄覚、妻に夢のことを話すと、「何なんでしょうね、それ」と首をかしげる。
 
翌々日、お昼頃からにわかに空が曇り、大風が吹いてきました。
そして、お堂が倒壊。
すると、屋根の裏板の中に年来の雨水がたまっていて、そこに魚が何匹も……
 
大きなる魚ども、多く有りける。
庭に落ちたるを、その辺の者ども、桶を提げて掻き入れ騒ぐに、その中に三尺ばかりの鯰、這ひ出たり。夢に違(たが)ふ事無し。
しかるに、浄覚、慳貪邪見深きが故に、夢の告げも思ひも敢へず
(思慮せず)、(たちまち)に魚の大きに楽しげなるに耽りて、長き金杖を以って、魚の頭に突き立て、太郎子(長男)の童を呼びて、
「これ取れ」と云へば、魚大きにして、取られねば(取れないので)、草苅る鎌と云ふ物を以って、顋(あぎと。あご、えら)を掻き切りて、葛に貫きて、家に持ち行きて、他の魚どもなど始めて桶に入れて、女どもに戴(いだ)かしめて、家に行きたれば~
 
やっちゃいましたね。
草刈り鎌でえらの所をざっくり。
奥さん、それを見て、びっくりします。
 
妻、この鯰を見て云はく、
「この鯰は夢に見えける鯰にこそ有めれ
(であるようだ)。いかに殺しつるぞ(どうして殺したのか)」と。
浄覚が云はく、「童部の為に殺されむも同じ事なり。敢へなむ
(さしつかえない)。われ取りて、他人交へずして、子どもの童部とよく食ひたらむをぞ、故別当は、『うれし』と思(おぼ)さむ」と云ひて、つぶつぶと切りて、鍋に入れて煮て、よく食ひつ。
 
親子水入らずで食えば、死んだじいさんも喜ぶだろう……
なんと勝手な理屈。
鍋で煮て、食っちゃいました。
 
浄覚が云く、「怪しく、いかなるにか有らむ、他の鯰よりぞ、この鯰の殊に味の甘きは。故別当の肉(ししむら)なれば、よきなめり。この汁すすれよ」と、妻に云ひて、愛し食ひけるに、大きなる骨、浄覚が喉に立ちて、えつえつと吐迷(はきまどひ)ける程に、骨出ざりければ、遂(つい)に死にけり。
 
「ほかのナマズよりうまいぞ。じいさんの肉だからうまいんだろう」
……す、すごい発言((゚m゚;)

しかし、これは仏法を説くためのお話であります。
うまくてよかったね♥──とはなりません、もちろん。
のどに骨が刺さって、死んでしまいました。
仏の罰か、じいさんの復讐か。
 
これ、他に非ず。夢の告げを信ぜずして、日の内に現報を感ぜるなり(その日のうちに報いを受けたのだ)。
思ふに、いかなる悪趣に堕ちて、量(はかり)無き苦を受くらむ。
これを聞く人、皆浄覚をそしり、悪
(にく)みけりとなむ、語り伝へたるとや。
 
しかし、じいさんの肉だからよけいうまいと言ってのける住職といい(そもそも魚でも肉食は禁止)、お寺のものを私物化していたそのじいさんと言い、“生臭坊主”はこの時代からたくさんいたんですね。

めでたしめでたし(ちがうか)。