お昼の生放送の情報番組に合わせて、記者会見が行われた。昨日の今日の出来事なので、即席で簡易的なものだったが、集まった報道陣の多さはさすがは敦賀蓮といったところか。

蓮は、昨夜の事情を簡潔に説明した。そして、今回のドラマは脚本自体が魅力的であること。このような報道のせいで、ドラマよりも自分達出演者のプライベートに世間が注目してしまうことは本意ではないこと。純粋にドラマを楽しんでほしいと語った。その後蓮は報道陣からの質問に二三応えたが、今回の会見をセッティングしたドラマ関係者の計らいにより、短時間でお開きとなった。



「なんでもありませんって言われてもね〰。やっぱりこの二人あやしいよね〰。てか、もうむしろくっついてくれたらいいかも!超お似合いだし!ヤバいくらいの良質DNAだし、きっと可愛い子供が産まれるよ〰。」
「え〰っ敦賀蓮が誰かのものになっちゃうとか〰ない〰っ!もうここの仕事頑張れない〰っ!」
「あはは、いつか起こることでしょ。蓮は北園百合のものにならなくても、あんたのものになるなんてこと、太陽が西から登ってもありえないから。」
「そうそう。敦賀蓮と付き合うなんて、北園百合クラスのハイスペックレディでないとね?あり得ないわけですよ。そのへんの女なんて、誰も許さないでしょ。てか、敦賀蓮が相手にしないー。」

テレビ局の社員食堂では、生放送の蓮の会見を見た女性社員達が楽しくおしゃべりに興じていた。

キョーコは、社員達の会話を聞きながら、蓮の交遊関係への注目度の高さと、蓮の恋人への世間の厳しい査定の目を改めて感じた。

(それにしても、敦賀さん、さっき変だったな。会見前で緊張してたのかな。…いや、敦賀さんに限ってそんなことないか。…やっぱりただの後輩のくせに出過ぎたこと言ったから、ウザいとかキモいとか思われたのかな…)
キョーコはずーんと思考の溝にはまりこんでいった。



急遽依頼されたラブミー部の簡単な仕事を済ませて、キョーコが現場に入ると、少し変な空気が流れていた。好奇な意を含んだ視線も感じる。居心地が悪く、「おはようございます」の声も小さくなってしまった。
そこに悟が入ってきた。キョーコと悟がチラと「さっきぶり」の視線を交わすと、周囲の人たちは目配せして、クスリと笑う者もいた。キョーコはいたたまれなくなってきた。

スタジオの奥の方で、三人で固まって話していた監督と蓮と百合もキョーコと悟に気付いた。百合は不自然な程にこちらを見ようとしないし、蓮にいたっては、こちらを見ているが恐ろしい程に無表情だった。

「杉山君、京子君、ちょっとこっち。」
輪を離れて近づいてきた監督に促され、スタジオを出て近くの小さな会議室に入った。

「ふ〰っ。あのね、ぶしつけで申し訳ないんだけど。君たち、その、付き合ってたりするの?」
「「はい?」」
自分の問いかけに目を丸くして、いかにも驚いていますという顔の二人を見て、監督は、う〰んと唸った。
「その反応は、否ととらえられるんだが…。…実は、今朝、君たち二人が杉山君のマンションから出てきたところを偶然ドラマクルーが見てて。しかも京子君は、昨日のままの服だったというじゃないか。で、君たちがデキていると、内輪で噂になっている。」

一瞬固まるキョーコと悟。

「僕達は付き合ってません。」
先に口を開いたのは悟だった。
「昨夜たまたま外で会って、僕が家に誘いました。二人きりでしたが演技について話していただけです。ですが、やましいことはないとはいえ、周囲に誤解を招くような軽はずみな行動をしたのは、浅はかだったと思います。」
監督は表情を変えないままキョーコを見た。
「京子君、杉山君の言ってることは本当かね?」
「あ、はい!本当です。申し訳ありません!」
キョーコはあわてて深々と頭を下げた。

監督はじっと二人を見つめたあと、盛大なため息をついた。

「はぁ〰っ。主演の二人も君たちも、事実はどうであれ、今の自分の置かれた状況を考えてほしい。ドラマの撮影はまだこれからだ。君たちは現場で仲が良いから、実は既に噂にはなっていたんだ。クルーの中には、男女が少しでも近づけば、色眼鏡で見てしまう者もいる。現場全体の士気にも関わってくるんだ。わかるね?はっきり言って、君たちには距離を置いてほしい。」

「それは、物理的に離れていろということですか?現場でも近づくなと?」
悟はしょんぼりしたまま訊いた。

「そういうこと。不自然にならない程度に、でも必要以上に関わらないでほしい。もちろん、現場を出てもだよ。役者のプライベートにどうこう言うつもりはないが、実際に今の現実は現場の雰囲気に響いているからね。
と、この話は以上!さ、戻ろう。撮影が遅れてる。敦賀君と北園君はスケジュールが詰まってるから、巻きでいくぞ。」

監督は、ニコッと笑うと、 パンパンッと手を叩いた。
キョーコも悟も「すみませんでした。」と頭を下げると、現場に向かう監督のあとに続いた。


キョーコ達が戻ると、現場の雰囲気はぎこちなく、キョーコはひたすら申し訳ない思いになった。
(はあ〰っ。敦賀さんと百合さんの大物カップルならいざ知らず、私みたいなぺーぺータレントが現場の風紀を乱すなんて、あり得なさすぎる…。)

だがその後、セットの中に立った蓮と百合が迫真の演技を披露したため、撮影クルー達もそれにつられて各々の仕事に集中し、撮影は滞りなく進行した。