CAFE' 徒然 -910ページ目

リーサルウェポンな女①

 今から一昔前、気の弱い女がおりました。
新聞の勧誘も断り切れず、NHKの受信料もしおしお支払い、ご近所のゴミ当番もしょっちゅう押しつけられるような、
お人好しのおとなしい女だった。

最初にプロポーズしてくれた男と結婚し、子供ができるまでは地味~な倉庫事務のパートで働き、朝、そうじと洗濯をすませ、3時にパートが終わってからは夕食の買い物をし、
洗濯物を取り入れて、日々つましい生活をしておりましたとさ、要するに亭主にばかり都合のいい、すんげえつまんない女だった。

最初の子供が出来て、ちょっとの間は幸せだったそうだが、亭主の方がそうではなかった。
乳飲み子をつれていてはパートには出られない、保育園には待機児童がわんさといて、おいそれとは預ける事も難しい。
当然、女の稼いでいた分の収入がなくなるわけだから、亭主の小遣いはその分減額、赤ん坊には何かと金がかかる。
最初のうちは女は自分のへそくりを取り崩したりもしていたが、先行き不安を感じて出し渋るようになる、そりゃ当然だ。

収入が減って、子供のいる生活が始まったら今までとは生活パターンを変えなければいけない。
そんな分かり切った事が、女の亭主には判っていなかった。
ぎりぎりの生活費しか入れなくなり、借金までするようになった。

赤ん坊を抱えてのかつかつの暮らし、明るい笑顔なんてできる筈ない、借金はかさんでいく。
亭主の足は家から遠のき、お定まりのように他に女をつくった。

亭主の浮気に気づいても、子供のために我慢を続けた。
金は入れない、文句を言えば殴られる、あげくに姑からはお前が悪いと責められる。
どうせ何もできないと亭主はやりたい放題。

そのうちに子供も大きくなる、父親と母親がうまくいっていない事は本能的に判る。

チック症がでた、おねしょもなおらない、そんな息子を父親は疎んじた。


ささいな事で子供に腹をたてた亭主が、子供をゴミステーションに放り込んだ日、夜中に泣いてる女に向って息子が言った。

「もういいよ、ママ、あんなパパいらないよ。」
我慢していたのは自分だけではなかった。

そこで覚悟が決まった。
心の中で、亭主をゴミステーションに放り込んだ。
しかし、すぐには行動に移せない、どうしたものかと思いあぐねている女に転機が訪れる。

子供のいなかった叔母が危篤になった、かわいがって貰っていた女は親身に看病し、最後を看取った。
善良な叔父は、叔母が積んでいた少しばかりの定期預金を、葬式の後で女に渡してくれた。


これは神の啓示だ、と思った。
死んだ叔母がチャンスをくれたと思った。
叔母の遺産の事は誰にも言わなかった。


離婚交渉は難航した、慰謝料は払いたくない、子供は姑が育てる、借金は折半だ。
納得できないと言えば暴力をふるわれる、お前だけが無一文で出て行けと亭主は述べこいた。
金をもたない女が何もできないと思った亭主は言いたい放題、そのうちに姑が著名な弁護士を雇って子供をよこせと言い始めた。

「てめえら、ふざけんなよ。」女の中で何かが目を覚ました。
家庭内別居、そりゃもう居心地悪い、けど、離婚交渉を有利に進めたい亭主は家から出て行かなかった。
わずかばかりの生活費を入れて、自分には非はないと主張し続けた。


女は子供が夏休みに入るまでじっと待った。
子供が夏休みに入ると同時に、密かに住民票を実家に移し、転校手続きをすませ、実家のすぐ近くに一間のアパートを契約、
すこしずつ実家に宅配便で荷物を送り、実家に行くたびにアパートへ運んだ。
着々とホームグラウンドでの戦いに備えた。
図書館で民法の本を読みあさる、調停の仕組みや、弁護士の相談料、法律扶助制度、行政が行う無料法律相談、知らない事ばかりだった。

無料法律相談ではごく一般的な法的アドバイスのみ、限られた時間の中では引き出せる情報は限界がある。

弁護士に相談すると一コマ当り5000円、無駄な時間を食うわけにはいかない、自分の要求と相容れない相手方の要求、この現状から有利に進めるためには自分がどのように動くべきか、
教えて欲しい内容を絞って、無料法律相談で担当してくれた弁護士の事務所を訪ねた。

金銭的に厳しい中、できる事は自分でやるから、一万円分おしえてくれと弁護士に向って最初に言った。
そこで得たものは大きかった。
勝てる見込みがあると踏んだ弁護士は、速攻受任、法律扶助制度を申請、相談料の一万円は受け取らず、「ご主人からいただきましょう」ときた。

翌朝、いつも通りにアホ亭主を見送った女は、自宅裏の公園の駐車場で待機していた引っ越し業者に連絡、何と2時間で生活に必要な家財を運び出した。
後に残ったのはがらくたばかり、照明器具も外し、電話もワイヤレスの子機だけ置いて親機を運び出した。

勝手に家財を持ち出したといって、亭主と姑は警察にねじ込んだらしいが、民事不介入だといわれ相手にされなかった、そんな事も知らんのかと。

女、曰く「だって、弁護士が、全然大丈夫、全部持ってきたってかまわないって言ったから。」
その通りである、とっても素直な性格。

●●ネコマークの引っ越し業者はとてつもなく素晴らしい働きをしたという。
きっと訳ありの引っ越しのノウハウがあるのだろう。

「言いたいことがあるなら、これからは弁護士に言え」とメモを残し、引っ越し荷物でごった返すアパートへ引き上げた。
怒り狂った亭主が、女の実家に乗り込んでも、女がいるわけはない、朝から待機していたいかつい叔父に追い返された。

アホ亭主、離婚調停を申立てて初めて、女の住民票が実家に移っている事を知る、調停では訴えたい相手の住民登録がある場所の裁判所での戦いとなる、
亭主にとってみればアウェーである。
弁護士を出張させるとご大層な日当を支払わねばならない。
女の弁護士、間髪入れずに婚姻費用の分担請求、食うのに困らない基盤を確保、戦いの始まりだ。
長引けば長引くほどボディブローのように亭主の金銭的負担はかさむ。

離婚調停は、別れたいと申立てた方が譲歩を強いられる、という。
調停委員は、「だって、あんたが別れたいんだから、このくらいの事は我慢しなさい」というスタンスを取るらしい。

弁護士先生宣わく、「離婚は言い出しっぺが不利」だそうだ。
アホ亭主は女の張った罠にどんどんはまった。

調停での戦術については、目下取材中であります。
続きをお楽しみに。






闇夜のバイオリン弾き

 月曜日に息子がジンギスカン遠足に行ってきた。
猿のように木に登って遊び、ジンギスカンを腹一杯満喫してきたそうだ。
そんな奴の持ってきた土産は生ゴミ用の穴あき袋に入ったコオロギ、気味が悪いくらいに沢山いた。

去年の虫かごは壊れて使い物にならず、苦肉の策としてティッシュペーパーの空き箱に生ゴミネットを貼り付けたものにお引っ越し願った。

夕食の後かたづけも終わり、CDなんぞを聴きながらネットで遊んでいると、コオロギ達はリンリンと可愛らしい声で鳴いていた。
どうやら「勝手にしやがれ」の「スローなブギにしてくれ」のサックスに反応したように鳴いている。
そうか、コオロギはブラスが好きなのだ。

しかし、可愛いと思ったのは1時間半くらいのもんだ。

夜中の1時、2時までそいつらの合奏は続いた、やかましいぞ、どついたるぞこらあ。
たまりかねた連れ合いは勝手口にコオロギを移動した。

かすかに階下から聞えてくるコオロギの声を聞きつつ、その日は何とか終わった。

翌朝、奴らは一匹残らずティッシュペーパーの空き箱から脱走していた。
息子の落胆はかける言葉もない程だったが、それだけでは終わらなかった。

奴らは家の中にいたのだ、姿を見せずに。
夜になってから、奴らは家のあちこちでリンリンと鳴いた。

真夜中につれあいの顔にへばり絶叫させ、ダイニングテーブルの下から飛び出し、昼間はカサカサと不気味な音を立て、
夜になると互いを呼び合うように鳴き始める、広範囲でやかましい、もうええっちゅうねん。

よく見ると奴らは私が本州でよくお目にかかった茶羽ゴキブリにそっくりではないか、だから生理的にあの姿が好きになれない。

今日は朝から勝手口も窓も全開、コオロギさま、どうぞお引き取りくださいませと願う。

今夜は静かに寝たいのだ。


神無月、辛口吟醸、おでんが旨い

 今日は朝から出かける用事があって、朝飯と一緒におでんをしこんだ。
卵をゆでで、大根を下ゆで、あとは適当に出汁をとって練り物と昆布を放り込む。
大根と卵は後から入れて、鍋の下の方に押し込む、ガキとつれあいが朝飯を食べている間にぐつぐつ煮込む、
横目で鍋をちらちら見ながら新聞を読み、化粧をし、出かける間際に火を止める。
いいなあ、おでんは簡単で、これで帰ってくるまでには卵も大根も味がしみこんで食べ頃。
自分で作れば安いもんだ。
我が家ではおでんにロールキャベツを入れるのだが、つれあいは「そんなの変だ」などと言う。
私はすごく旨いと思うのだけれども、時々我々は相容れない事がある。

内緒で買った辛口吟醸もよく冷えている。

不景気、就職難、されど水産加工場は人手が足りない??

 10月に入った、今年もあと二ヶ月ちょっとである。
職業安定所には季節ものの求人が出始めた。
たらこ、数の子、飯鮨、お魚天国、水産加工場でのバイトだ。
朝早い、寒くて、きつくて、魚臭い、加工場のバイトは若い奴にはとことん敬遠される。

アウトソーシングの会社がそこに目をつけて、結構な時給で大量募集をかけたが、なかなか決まらない。
加工場といっても、短期、たった二ヶ月である、今、採否待ちのやつがコケたら加工場バイトをやってみようと思った。
月曜日から土曜日までびっしり、ましてや土曜日は休日出勤扱いで時給が25パーセントアップだ、そこらへんのパートタイマーの
倍は稼げる。
つなぎでやる仕事なら、きれいで安い仕事より、きつくても稼ぎのいい仕事の方がよいではないか。
ぶらぶら遊んでいるよりははるかにマシだと思う。

やった事がない仕事でも、やってみなきゃわからない。

「いい年齢をして、またそういう冒険をする」とつれあいは反対しているが、ヒマも多すぎると体に悪い。
何事も経験である、仕事がないから働かないという若い奴も、どんどん加工場バイトをやってみればいいのにと思う。

不景気風吹き荒ぶ街の職安の出張所にて

 私の住む地域には、大型商業施設があり、その一角に職安の出先機関がある。
大型商業施設に関わる求人や、地元のパート、アルバイト等の求人票の閲覧ができ、
面接希望者には職安と同じように紹介状を発行、職安の出張所のようなものである。

この町には失業者が多い、元気な若い者ですら職に就けずにさまよっている。
何がニートだ、働く意欲のある若い者はいくらでもいるじゃないか。


私もそろそろ常連の部類に入りつつあるが、とにかく来る来る、仕事はないか仕事はないかと、皆必死である。

ましてやもうすぐ市内のデパートが閉店になるので、失業者が数十人単位で増える。

受付カウンターの職員は多忙を極めているように見える。
つっけんどんな爺さんや、お役所的な対応の人、それぞれのキャラクターも、このごろ何となく見えてきた。
そりゃ、これだけの失業者に毎日対応していたら嫌にもなるだろうなと思う。

その中に、たった一人だけ、親身に話を聞いてくれるおばちゃんがいる。

来る奴、来る奴、一人一人にじっくり時間をかけて対応し、時には励まし、時には現実の厳しさを諭し、
帰り際には必ず「頑張ってね」と声をかける。

ありがたいと思う、こう長いこと失業するつもりはなかったから、正直ヘコむ事もある。

時々おばちゃんがマザーテレサに見える事がある。


こういう人には税金を払ってもいいと思う。



stormy weather 法律は、お馬鹿さんを守ってくれない。


 「女が男とケンカで勝とうと思ったら、ヤクザか弁護士を味方にするしかない」
私の身近な人の名言である。

どっちにも大層なお金がかかるが、後の事を考えたら弁護士さんを味方にする方がリスクは少ない。

何故か私の周りには離婚経験者がゴマンといる、男も女も、親に振り回された子供も離婚経験者だろう。
子供もおらず、互いに納得し、今では良い関係の友達になっている奴らもいるが、大方の場合はそうはいっていない。
ましてや子供がからむと、互いの親兄弟まで乗り出してきて、それぞれが勝手な事をやりたがる。

独身の時、知人に紹介され、二度ほど食事をした人がいる。
いわゆる男らしい職業で、体格も良い、頼りがいがありそうで、後輩達にも慕われていた。
二度目の食事は二人だけ、軽くお酒も入って良いムード、の、はずだった。
私にとっては軽いお酒だったが、彼にとっては軽くはなかったようだ。
二人でたかだか日本酒8合くらい、一升までは飲んでいなかった。
互いの子供時代の事を楽しく話していた。
予期せぬ出来事が起こった、そいつが突然何も言わなくなったと思ったら、涙だ、泣いているのだ。

私が何かしたというのか????

嗚咽から始まり、号泣、しゃれた日本料理屋の客の視線が私にチクチク、ヒソヒソ、嘘だろう、おいおい。

逃げようとも思ったが、紹介してくれた知人には義理があった。
こいつを捨てていったら、私はただの食い逃げだ。

でかい肩をかかえて、軽く叩いて、まるで私はお母さんのようだ。
どうしてこういうパターンが多いのか。

そいつは去年離婚して、2歳の男の子は前妻が連れて行ってしまったっきり、最近前妻が再婚したので、
もう二度と会わせないと言われたというのだ。

「子供に会いたい、それだけだ、毎日毎日、思い出さない日はない、オレは寂しい」

法的な面接交渉の取り決めは何もなかったとの事、ハンコ一発で別れた協議離婚だった。
面接交渉権という言葉も知らず、法的に子供との面会を求める道がある事も知らず、ただただ諦めきれずに泣いている。

アホである、別れ際に女房から一筆とっておけば、相手から一方的に子供との関係をぶった切られる事もなかったのに。

すでに子供は前妻の再婚相手の養子になっているから、難しいかもしれないけれどもと前置きをして、
家裁に申立てて、前妻と話し合って解決する道がある事を教えてやり、詳しい話は行政サービスでやっている無料法律相談に行って弁護士先生に教えて貰えと言ってやった。

翌日、法律相談の予約まで私がやってやった。
その後の事は知らないが、そいつから食事の誘いは二度となかった。
知人には、私に振られたと言っていたらしい、振ったつもりはないのだが、酒に弱い奴とはきっとつきあえなかっただろう。
会って間もない女の前で、酒に酔って子供恋しさに号泣するようなザマはあまりにも寂しい。

無知蒙昧は権利の放棄、法律は弱い物の味方なんかではない。
都合良く使った奴の味方である。

そのうちに、養育費と慰謝料を巡って、わずか一万円で調停を戦い抜いた女の話をいたしましょう。


  

神無月 紬の袷に袖通す IPODには「もののふ」をロード

 「もののふ」なるパンクバンドにハマッている。
食費をちょろまかし、アマゾンから買ったCDの一枚「東京の人」が目下のお気に入りである。
臆面もなく、「私は日本を愛して居ます。理由は唯一つ、私の祖国だからです。」と言ってのける潔さ、
気に入ったのだ、私も日本を愛しているから。

日本人は本来、品性ある民族だったはずだと、敗戦後、アメリカ文化に毒されて、その品性を失ってしまったと、
その通りだ、私もそう思う。

かてて加えて、少女時代をパンクで過ごし、ヤンキー達からは
「お前ら不健康なんだよ」と罵倒され、学校ではバケツをぶん投げられた。

ヤンキーの横浜銀蠅に負けじと、セックスピストルズを校内放送で流し、教師からは毛色の変わった不良とそしられ、
大人になった今でもタテノリビートにはつい腰が踊ってしまう。

なんという嗜好のマッチングの妙であろうか、神の啓示とこじつけてどっぷりとはまりこむ。

明日は観劇の予定、昨年の定期公演の際も着物で出かけ、友人からは「おでん屋の女将さんみたいだ」と言われた。
誰も「黒革の手帳」とは言ってくれない、クラブのママというよりは、女将さんに見えるらしい。

母親の遺してくれた大島紬の着物を着よう、日本人であろうと努力をしよう、でも音楽は聴きたいから
帯にIPODをしのばせて、タテノリビートでお出かけしよう。


トラックバックのお題 あなたは今どこにいますか~

  北海道某市 地価下落著しい住宅街

  静かな夜には船の汽笛が聞える


物件:築40年、持ち家だが借地 地主さん、お願い、40年も住んでいるのだから安く売って下さい!!!!

    契約更新のたびにうん十万円もふんだくりやがって、このごうつくばり!!!!

    面と向って言ってみたいな・・・・・

    私って、ほら、おとなしい性格だから・・・・・



   

天なるや 月日の如く わが思へる 君が日にけに 老ゆらく惜しも

 10月も早や半ば、日も短くなり。
毎朝、布団との別れが親子の別れのように辛い季節になってきた。
今日からガキは三連休、月曜日の体育の日には子供会のジンギスカン遠足がある、保護者の参加も可とある。
いいなあ、楽しそうだなあ、ビール持って参加しようかな、などと思っていたらガキから痛烈な一言。
「母ちゃん、来るなよ。」

なんでだよお、冷たい息子だ、いいじゃないかよお、おかんだってジンギスカン遠足行ってもいいじゃん。

「だって長距離歩くから、かあちゃんには厳しい」

その通りだ、私は歩くのが苦手だ。

いまだ運動嫌いが克服できない、納豆は克服できたのだけれど、歩く、走る、苦手だ。
足手まといは必至だ、悔しいが息子に読まれている。

「おにぎりくらい自分で作れるから、ゆっくり寝てろ」とまで言われた。
いつの間にかそんな子供に育っていた。

思えば奴が赤ん坊の頃から働くばっかりで、こうやって長期間失業状態になって初めて、平日の昼間じっくりと奴と過ごした。
もうすぐ奴は私より大きくなる。
放っておいてもなんとか自分の事は自分でできている、私が手を出すとうっとうしいと言う。
奴は奴なりのペースで日々の雑事をこなしている。

そろそろつきあい方を変えた方がいいのかな、とも思う。

いつまでも息子が小さな子供でいると思っているのは私だけだとつれあいは笑う。

そうかもしれない、男の子には母親はいつまでもくっついていちゃいけない、お互いのためだ。


リキ入れて生きる奴

 昨年の春、つれあいのごく近しい身内の青年が転職をした。
ものすごく以外だった。
何故なら、彼は、若い人ならかなり羨ましいような、カッコいい横文字の職業に就いていた。
海外へも行け、年収も悪くない、携帯端末を使いこなし、しゃれたスーツを着こなして、ばりばり稼いでいるように見えた。

都会的でシャープな印象、すらりとスマートな彼は、その辺の韓流スターと並べても見劣りしない、いや、充分勝てる。
田舎もんの私はいつもほれぼれ眺めていたもんだ。
つれあいは、「オレの若い頃によく似ている」と言うが、それはあまりにも彼に失礼だと思う、そんな非の打ち所のないイケメンである。

そんな彼がジャージにエプロン姿で、介護の現場で働く事を選んだ。
ヘルパー2級から始めて、その上の資格取得をめざして老人専門病院で働き始めた。

赤の他人のシモの世話までせねばなるまい、夜勤だってある、相当キツイ仕事である。

「あいつにつとまるのか????」

つれあいは彼の転職に反対はしなかったが、その行く末を案じた、あまりにもキャラクターとのギャップが大きい。
しかし、彼は今も同じ病院で勤務している。
実家から自転車で通勤し、力仕事で筋肉がついたと笑っている、何となく精悍な体つきになってきた。
何より笑った顔が自然だ、これが本来の彼なのか?

男前は相変わらず、婆さん達に大人気で、「うちの孫と結婚しろ」と迫られるそうだ。

昨春、彼と同時期に介護職に就いたのは、新卒を含めて7人、今、職場に残っている同期は2人だけ。
早い奴は5月の連休明けにはいなくなったそうだ。

もう一人残っているのは20代前半の女の子、高校中退、時々ガラが悪い元ヤンキーだそうだ。
真面目で意欲満々の新卒がどんどん辞めていく中で、キツイ仕事に耐え、最後まで残っているのが
異業種参入の彼と、元ヤンキーの女の子というのが興味深かった。

「考えていた事と現実が多少違っても、逃げないでリキ入れられる奴しか残っていない」そうだ。

若いうちに逆境にあった経験が彼らのリキの根源であるらしい。

時々彼は我が家に顔を出す。
座った途端居眠りをする事もある。

疲れていないか青年?無理はするなよ、相談事があるならいつでも言え、飯ならいつでも食いに来い。

彼が介護の仕事を選んだ理由をまだ誰も知らない、そのうち教えて欲しいと思っているのだが。
来年は試験だ、負けるな!!!