私ももう43歳、中高生の時代はちょうど80年代にあたる。


鹿児島の田舎暮らしであった。末期に民放テレビ局が1局増えたが、当時はまだ2局。地元にはFM局すらない。結構、洋楽にハマっていたが、外タレが来ることはまずない。というか、国内のアーティストでも福岡、せいぜい、熊本止まりで鹿児島まで来ることは余りない。おかげで、「フィルムコンサート」なるものくらいしか行ったことが無かった。当然のことながら、インターネットなんてない。情報源は友人たちと共同購入していた米国Billboardを、辞書をひきひき、隅々まで読むことくらいだった。


たぶん、これは今でもそれほど変わってないのだろうけど、中高生、特に受験生ともなると、「深夜ラジオ放送」は親友ですらある。オールナイトニッポンは、そうした親友の一人だった(ちなみに、それも第二部は放送されない~たまに、県外の放送局から電波がかろうじて入ることもあったが)。


「中島みゆき」氏は、そうした深夜放送のパーソナリティーとして絶大な人気を得ている一人であった。私も当時、ファンの一人だった(もっとも、友人からは、お前程度はファンの内に入らない、という熱狂的な奴らもいたが)。女史が作られる楽曲は異なり、その放送はほとんどお笑いの時間であった。しかし、必ず、最後に涙したり、考え込まされるような葉書が一枚読まれて終わるのが常であった。この時間帯、女史は多くは語らないが、世の不条理とか、権力に泣き寝入りさせられること、とか、そうした青少年の正義感を駆り立てる、静かなメッセージを送り続けていたように思い出される。


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世は変わる。テレビ番組には出演しない信条であった女史がテレビのドラマの主題歌を歌ったり、時には自らドラマにも出演したり、とうとうCMでオチャラケキャラを披露するのも時の流れだ。別に悪いことではない。


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しかし、である。更に世は移り、インターネット大繁栄の時代が来て、新興企業が日本の資本市場を席巻する。楽天だったり、ライブドアだったりだ。そして、新興企業が勃興するときには常に、といっていいほど、既得権益を有する大企業との軋轢が生じる。


ライブドアによるニッポン放送買収事件である。最終的にはどっちもどっち、という色彩もあり、ここでは、どちらの肩を持つことはしない。しかし、このとき、ニッポン放送(あるいはフジテレビ)側から出された有名なメッセ意地が:



”リスナー(聴取者)に対する愛情が感じられず、また責任のある放送や正確な報道についても理解”


というものである。(なお、表現はwikiを借りた。ニッポン放送の経営権問題を検索して欲しい)


ライブドア側、特に当時の代表であるホリエモン氏(?)がこの条件に当るのかどうかもここでは不問とする。


しかし、では現在のニッポン放送(あるいは特にフジテレビ)が、この条件に今でも合致しているのか、自省を促すのも、いい機会だろう。


このとき、中島みゆき女史は、ニッポン放送(あるいはフジテレビ)側に肩入れし、ほぼ同様のメッセージをライブドア側に突きつけている。


ここで、証券市場に携わっていた者として、一点のみ申し上げておく。この買収騒動の中で、ニッポン放送はライブドア側からの買収攻撃に対する防御として新株予約権を発行し、フジテレビ側に譲り渡した。何故か、訴訟での争点とはならなかったが(弁護士が理解していなかったようにも思われる)、確実にこの、新株予約権価格の設定は不合理で違法といえるものだ、ということだ



新株予約権とは、株式の発行会社が、将来、新株を発行する場合に予め決められた価格で新株を渡します、という権利書のようなものだ。専門的にいえば、『オプション(特に、コールオプション)』である。オプション価格の決定には、ブラック・ショールズ式など、いくつかの算定方法があるが、どういう計算方法を用いようが:



オプションの本源的価値を下回らない



のはサルでも分かることである。つまり、現在の株価が1000円の株を、500円で売ってあげるよ、という権利は、現時点で既に500円の利益を確約されたものである。もちろん、1000円以上になれば更に利益は増える。逆に1000円を下回れば利益は減る、あるいは、500円すら下回れば利益はゼロになるが、『権利』である以上、株価が下がることは確率計算に入れない。



なぜ、こういう事態が生じたのか、長くなるのでここでは割愛する。しかし、どんなにライブドア側に「リスナーへの愛情や放送事業に対する責務の無理解』があろうとも、ニッポン放送/フジテレビ側の、証券市場を欺く行為を正当化することにはならない。



結果的には、中島みゆき女史は、そうしたニッポン放送/フジテレビ側に味方した。



これは古い話ではない。似たようなことは今でも行われている:




「紳助騒動」でも明らかになった吉本興業の非上場化メリット、“行儀悪い”非上場化に株主からの訴訟も
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20110914-00000001-toyo-bus_all



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いま現在、女史がこの件についてどのように考えているのか、は知らない。しかし、今でも、ニッポン放送/フジテレビに、「リスナーへの愛情」を感じ取っているのか、30年くらい前に、女史の深夜放送を聞いていた中高生の私には説明願いたい、と考えている。