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奥歯の溝が深いと虫歯になりやすい! 子どもの虫歯本数が約44%も減少した、予防に効果的な「シーラント治療」について歯科医師が解説



歯の健康は、子どものうちから正しいケアで守ってあげたいもの。今回は奥歯の虫歯について、その予防と治療の現在を歯科医が解説します。執筆/島谷浩幸(歯科医・歯学博士・野菜ソムリエ)


子どもの歯の仕上げ磨きをしている時に、溝が深い奥歯を見ることはありませんか? 実はこのような歯は、歯ブラシの毛先が届かない溝の深い所で虫歯菌が増殖しやすく、虫歯になりやすいことで知られています。

今回は、そのような歯の溝を樹脂で埋めて虫歯予防するという「シーラント治療」について論じます。

シーラントとは?

シーラントは、簡単に言えば、虫歯になりやすい奥歯の溝を樹脂であらかじめ埋めてしまい、虫歯の原因となる虫歯菌が入らないようにしようという考えに基づいて考え出された治療法で、フィッシャーシーラントや小窩裂溝填塞法(しょうかれっこうてんそくほう)とも呼ばれています。

また、このように奥歯の溝を物理的に封鎖する目的だけでなく、シーラント材(レジン樹脂)の中に含まれるフッ素(フッ化物)により再石灰化を促進することも期待できるので、歯が軟らかくて虫歯になりやすいと同時にフッ素も取り込まれやすい乳歯や幼若永久歯(生えたばかりの永久歯)の虫歯予防に特に効果的です。

さらに、上顎側切歯(中央から2本目の歯)の裏側(口蓋側)にも深い溝(盲孔)があることが少なくないため、前歯に適応するケースもあります。

保険適応ですので、基本的な治療法として大半の歯科医院で対応できる虫歯予防法となっています。

約44%虫歯本数減少!シーラントの虫歯予防効果を示す研究報告

1993年のLlodra氏らによる研究内容によれば、虫歯リスクの高い歯にシーラント処置を実施したところ、4年以上で約60%の虫歯予防効果が認められて有効な虫歯予防法として応用できることが示唆され、特にフッ素(フッ化物)との併用で虫歯予防効果がさらに増加することが報告されました。

また、1997年に新潟大学歯学部予防歯科学講座・葭原明弘氏らは、新潟市の1995年度の年中・年長児3647人、小学生11045人の第一大臼歯を対象にシーラントの実施状況を調査し、虫歯予防効果との関連性を調べました。

その結果、図2で示すように平均DMF(虫歯の指標)歯数は、シーラント処置のある歯がない子どもは1.33本であったのに対し、シーラント処置のある子どもは0.75本となりました。

つまり、およそ44%も虫歯の本数が少なくなるという統計学的に有意の差がある結果となり、シーラントが虫歯予防に有効であることがあらためて示唆されました。

シーラントの術式

シーラント処置を行うことができるのは法律上、歯科医師および歯科衛生士に限られますが、歯科医院で行うシーラント処置の具体的な術式について順番に見ていきましょう。

1.歯面の汚れを落とす

歯の表面に汚れがあるとシーラント材と歯との接着が妨げられるため、食渣(しょくさ、食べかす)や歯垢(プラーク)を丁寧に取り除きます。

2.歯面を酸処理する

シーラントを埋める部分を酸処理(エッチング処理)することで歯面の消毒をすることができるだけでなく、歯質の表面に細かな凹凸ができるためシーラント樹脂が歯により強固に付きやすくなります。

エッチング後は水洗し、酸を十分に洗い流します。

3.歯面をよく乾燥させる

唾液等の水分が残っているとシーラント材が歯に付きにくくなります。しっかり付くように乾燥させ、歯の周囲をワッテ(綿花)で囲って防湿します。

4.シーラント材の充填、光照射

シリンジの先端を溝に当ててシーラント材を注入し、専用機器で光を照射して硬化させます。通常はシーラント材を溝に薄く流し込むだけですので、直接的に噛み合わせに影響することはほとんどありません。


歯の表面を酸処理するなど前処置が必要ですが、シーラント処置は歯を削らなくてもいい、痛みを感じないといった利点もあり、サホライド塗布とともに、恐怖心のある子どもに対しても簡便に実施しやすい虫歯予防処置だといえるでしょう。

シーラントの欠点

シーラント処置は効果的な虫歯予防法として、子どもに心身的な負担をかけにくい優れた治療法ではありますが、いくつかの欠点もありますので挙げてみようと思います。

シーラント材はある程度の硬さはあるものの、強い力がかかる奥歯の咬合面(噛む面)を主として適応されるため、噛み合わせや食事内容などによっては部分的に欠けたり外れたりする場合があります。

また、通常の虫歯治療で行う詰め物であれば、外れにくいように歯を削って形を整えますが、シーラントは樹脂を流して固めているだけですので、その点からも通常の詰め物よりも外れやすくなっています。

再度の処置はできますが、中途半端な欠け方をした場合は虫歯菌が繁殖しやすい状況になることもありますので、歯科医院での定期的なチェックが不可欠です。

また、「シーラントをしたから、もう虫歯にはならない。大丈夫」というように、シーラントの虫歯予防効果を過信しないことも大切です。シーラントをしても歯磨きを怠れば、虫歯になる可能性はあります。

虫歯予防の基本はやはり歯磨きだということを忘れずに、シーラントの処置を受けた後も、歯磨きは念入りに行いましょう。

シーラントのさらなる応用 ~地域歯科保健活動への活用~

地域歯科保健活動の一環として、フッ素(フッ化物)の応用とシーラントを組み合わせることで、大きな虫歯予防成果を上げている地域もあります。

つまり、保育園や幼稚園、学校でフッ化物洗口を実施するとともに、歯科定期検診でより虫歯になりやすいリスクの高い歯のあることがわかった子どもには、地域の歯科医療機関でシーラントを実施することをシステム化するなど、施設と診療所のスムーズな連携が行われているのです。

その一例として、新潟県のケースを紹介しましょう。

およそ20年にわたって12歳児の虫歯数が全国で最少となった新潟県は、1981年に全国に先駆けて「むし歯半減10か年運動」を開始するなど、行政や県歯科医師会、大学、教育委員会等が一丸となった積極的な取り組みで知られています。

文部科学省の令和2年度調査によると、新潟県における12歳児の虫歯数は全国で最も少なく、0.3本でした。

フッ素でのうがいは現在、9割以上の小学校で実施されており、令和2年度の新潟県における調査によると、歯科検診でCO(要観察歯)と判定された歯のうち小学生が38.4%、中学生が36.6%という高い割合でシーラント処置を受けたことがわかりました。(学校歯科検診についての関連記事はこちら≪

個人でフッ化物洗口剤という生活習慣を何年も続けていくのは難しいですが、フッ化物洗口を実施している小学校では、どのような家庭の子どもでも学校に行きさえすれば、虫歯予防の生活習慣を送ることができるという大きな利点があります。

それに加えて、虫歯リスクの高い歯に対してシーラント処置を行い、さらに予防効果を高めていることが示唆されました。

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以上のように、虫歯予防には個人レベルの歯磨きだけでなく、シーラントやフッ素を活用した家庭や学校、地域での積極的な取り組みなどが必要であり、それを推進する国の動きにも期待したいですね。