忙しい・・・・ここのとこ本当に忙しい
目の離せない患者が数名いて
満足に帰宅するのも、ままならない
やっと帰宅しても電車もなくなってるような深夜で
琴子はすでに寝ているか・・・起きていても
ゆっくりと話もできない
かろうじて顔が見れれば良いって状態だった
それでも帰宅できていた時は良かった
たとえそれが寝顔だったとしても
少しの間でも琴子の顔を見る事ができた
それがここ2~3日は帰宅もできないような状態で
泊まりを余儀なくされていた
そんな状態の俺を心配して
(半分以上は会えない事に琴子自身が我慢できなくなって)
琴子が弁当を作ってきてくれるようになったんだが
「入江く~ん♪お待ちかねの愛妻弁当ですよ♪」
「煩い・・・院内で騒ぐな」
「もう~せっかく持ってきたのに
そういう事を言うんだから
ここは入江くんのオフィスだもん
他には誰も居ないでしょ」
拗ねたような口調で、それでも俺に会えた事で
ニコニコと嬉しそうにしながら
テーブルに持ってきた弁当を広げている
オニギリに玉子焼き・煮物など
本来なら美味しそうな弁当のはずなのに
「・・・・相変わらず真っ黒な弁当だな」
「うっ・・・だけど・・・だけど・・・
昨日よりは美味しいはずだもん」
ポットから熱いコーヒーをカップに注ぐ琴子の前に座り
オニギリを一口かじる
「・・・塩ききすぎ」
「うっ・・ゴメンネ」
そっと琴子がコーヒーを俺に差し出す
玉子焼きを食べればバリバリと
ありえない音が聞こえ煮物を食べれば
「サトイモは煮えすぎでべチャべチャ
人参は生煮え・・・ウィンナーは周りは真っ黒で
中は・・・凍ってるぞ?」
「おかしいなぁ~祐樹くんは
昨日よりはマシになったって言ったのに」
「祐樹?」
なんでここで祐樹の名前がでてくるんだ?
俺の眉間に自然を皺がよった事に琴子は
気づきもしない・・・・・それどころか
「うん、祐樹くんに味見してもらってるんだけどね」
味見?なんで祐樹なんかに味見させるんだよ
「味見?失敗作の処理の間違いだろ?」
「えへへへへっばれたか
だけど・・・だけど入江くんのお弁当には
出来の良いのを入れてるんだよ!本当だよ」
ネチャネチャバリバリゴリゴリ・・・とうてい弁当を
食べているとは思えない音が鳴り響く
「出来の良いのねぇ・・・
どうでも良いけど
あんまり変な物を祐樹に食べさせるなよ
病人を増やされたら
たまったもんじゃない
被害者は俺だけにしとけ」
そう琴子の料理を食べるのは
俺だけの特権なんだから
「ひど~い被害者だなんて
可愛い~奥さんの手料理なのに」
「はいはい・・・
じゃあ可愛い奥さんの手料理を食べるのは
旦那様の俺だけにしとけよ」
そう言いながら琴子の唇をふさぐ
ゆっくりと時間をかけて琴子の唇を味わった後
「返事は?」
「はい・・・」
「良い子だ
じゃあ、夕方仕事が終わったら
ここで待ってろよ」
「えっ?」
「今日は久しぶりに定時で
帰れる」
「一緒に帰れるの?
じゃあ!じゃあ帰りに寄り道してもいい?
久しぶりにデートしたいな♪」
「気が向いたらな」
やった~♪と上機嫌でオフィスを出て行く琴子を
見ながら、なんとしてでも今日は定時で
帰るために仕事を終わらせるのと残った仕事を
西垣先生に押し付けるために
俺は午後からの仕事を再開した
END