Hey!Say!JUMP知念侑李主演映画「坂道のアポロン」、3月10日の公開初日に先輩と渋谷で観てきました。
以下、ネタバレありの感想です。
ご注意ください。
「坂道のアポロン」は男同士のラブストーリー
この映画の本質は、薫(知念侑李)と千太郎(中川大志)の「ラブストーリー」であると感じました。
もちろん、薫の律子(小松菜奈)への恋、千太郎の女子美大生への恋もあるのですが、映画はそれらを通じた薫と千太郎の関係性の変化や成長にスポットを当てています。
母に捨てられ父も亡くし佐世保の親戚の家で暮らすことになった薫と、赤ちゃんのとき教会に捨てられ里親に育てられた千太郎。
孤独を抱えた男子高校生ふたりが出会い、惹かれ合い、別れ、葛藤しながら、心を通わせていく過程が描かれています。
三木監督は「薫と千太郎の友情以上の結びつきは、お互いに『ここにいていいんだ』という存在価値を認めてくれる相手だったから」「でも男同士で気持ちを言葉になかなか表せないから、音楽で会話しているんです」と語っています。
音楽で会話する・・・孤独な少年ふたりが自らの存在理由を確認し合う会話、いや「ラブシーン」と言ってもいいと思いますが、それが薫のピアノと千太郎のドラムによるジャズのセッションとして表現されています。
これがこの作品の最大の特徴であり、感動を呼ぶ中心的仕掛けになっています。
転校してきた薫が、校舎屋上の入口前で寝ていた千太郎と出会うシーン。
寝ぼけた千太郎が薫を見て、「迎えに来てくださったとですか」と天使だと勘違いします。
もうここから恋が始まりそうです(笑)
一番印象的なのは、夜の教会で薫と千太郎が二人きりで「モーニン」を連弾するシーンです。
「家に居場所のない俺の気持ちがわかるか」と自棄になる薫に、千太郎は自分の出生の秘密と、その孤独をドラムが救ってくれたことを告白します。
薫「俺もピアノだけが嫌なことを忘れさせてくれた」
千太郎「おいもドラムだけたい、今までは」
薫「千太郎・・・」
千太郎「なんや、薫・・・」
ふたりは見つめ合い、オルガンを一緒に弾きます。
これ完全に精神的なラブシーンです。
もうキスしちゃえよって映画館の誰もが思ったはずです(笑)
「坂道のアポロン」はドキュメンタリー映画
そんなラブラブなふたりですが、あることがきっかけで喧嘩し、破局してしまいます。
千太郎は薫と離れ、誘われたロックバンドに入って文化祭に出場しますが、トラブルで体育館の電気が落ちてしまって演奏が中断。
そんな中、ツンデレな薫が突然ピアノを弾き始め、そこに千太郎が乗って来て、ふたりのジャズセッションが始まり、体育館の生徒たちを魅了する。この映画最大の見せ場です。
「マイフェバリットシングス」から「いつか王子様が」、そして「モーニン」へと移っていくふたりのジャズセッションは圧巻です。
これを吹き替えなしでやっているのは驚きです。
ピアノ初心者の知念くんはこのシーンのために、撮影8ヵ月前から練習を始め、中川くんもドラムを猛特訓したそうです。
これを代役や吹き替えなしに臨んだことは、最大の見せ場である文化祭のセッションシーンに最高のライブ感を加え、さらに薫と千太郎の成長=知念と中川の成長というドキュメントを追体験できる構造にもなっており、観客の感動や驚きを増幅させています。
自分も子供の頃ピアノを習ったことがあるのでわかるのですが、たった8ヵ月の練習で、忙しいアイドルがここまで上達したこと自体が奇跡だと思うんです。
ちなみに映画の事前特番の中で中川くんは知念くんの独特なピアノ練習法について明かしています。
中川「僕は楽譜を見てドラムを覚えるんですけど、知念くんはピアノの先生が弾く指の動きを真似して覚える」
なんと知念侑李はダンスをコピーするように、ピアノの指の動きを完コピしていたのです。
知念くんはJUMPの中でもダンスを覚えるのが驚異的に早いことで有名です。先生のお手本を一度見ただけで覚えてしまうくらいだと聞いたことがあります。
小さいころからダンスを続けてきたことが生きたとも言えるし、天才知念だからこそ、この奇跡の映画は成立したと言えるのかもしれません。
「坂道のアポロン」もう1つのラブストーリー
ピアノに関しては他にも興味深いエピソードがあります。
楽器の演奏が不可欠な作品ですから、プロデューサーは薫と千太郎をキャスティングする際にピアノとドラムの経験者を探していて、中川くんが1年ほどドラムをやったことがあり、知念くんもピアノ経験者だという情報があって出演が決まったそうです。
しかし、JUMPファンならばわかるように、JUMPのピアノ担当は伊野尾慧だし、知念侑李にピアノ経験があるなんて聞いたことがありません。
キャスティング後に、ピアノを弾けるというのが誤情報だったことがわかり、スタッフは大混乱に陥ったそうです。
この誤情報の流出元について、知念くんがインタビューで語っています。
知念「山田涼介がマネージャーから『知念はピアノ弾けるの?』と聞かれて『弾けます』と答えたらしく、ピアノが弾ける方向で話が進んでいた。でも僕はまったくの素人」
知念侑李のことを最も知る男、山田涼介がなぜこんな嘘をついたのでしょうか。
それはわかりません。
でも、山ちゃんの嘘がなかったら、この映画に知念くんが出演していなかった可能性もありえます。
その優しい嘘に努力と才能で見事に応えた知念侑李。そんな知念くんを最も理解する山田涼介だからこそつけた嘘。
だからこの映画自体が、ある意味、山田涼介と知念侑李の裏ラブストーリーと言ってもいいのではないでしょうか(笑)
律子という存在の重要性
文化祭でのジャズセッション、時折り目を合わせながら自由に楽しそうに音を重ねる、ふたりだけの世界が展開されます。
それは幸福な時間であり、見方を変えれば、別れたふたりが仲直りして音楽でイチャイチャしてるだけなわけですが(笑)
小松さんも「生で聴いていて自然と涙が出てくるというか、ふたりの視線が合うのが愛し合っている感じがして素敵だなって」と語っています。
仲直りした薫と千太郎のセッションを見て涙する律子を見て、観客は涙します。
つまり、多くの女性客は律子の目線、感情を通じて、薫と千太郎を理解していきます。
この小松菜奈さん演じる律子の存在が、この映画に独自性をもたらす重要な役割を担っています。
小松「イチャイチャするふたりを見て、微笑ましいなとか、かわいいなとか、後ろで見守って、支えているのが律子ちゃんなのかなと」
律子は千太郎に片思いしていて、薫はその律子に片思いしているという三角関係なのですが、この律子の独特な立ち位置が、胸キュン系映画にありがちな三角関係と決定的に違うこところであり、この青春物語の造形をより美しく、より純粋にしていると思うのです。
佐世保という世界観の重要性
この映画は舞台である長崎県佐世保市を中心にオール九州ロケで撮影されたそうです。
坂道を登ったり降りたり、走ったりするのは、この映画の主題そのものですが、そうした佐世保の風景、坂道や教会や海岸や自然が、とても鮮やかに切り取られています。
時代設定は1960年代ですが、自分もその世界に引き込まれてしまいました。
それは、地方で高校生活を送ったことがある人間なら誰もが持つ、土地の匂いと結びついた青春の記憶を刺激されるからなんだと思います。
監督は当初、原作やアニメを超えられるか不安だったそうですが、自分は原作もアニメも見ていないのでわかりませんが、この佐世保という土地の世界観に観客を引き込むことは実写映画でしかできないし、それは大成功していると思います。
そして、やはり佐世保といえば、様々な文化が交錯する港町であり、また映画にも黒島の天主堂が出てきますが、隠れキリシタンの歴史を連想せざるをえません。
禁教期に厳しく迫害されながらもなお信仰を捨てなかった隠れキリシタン、その文化や歴史が映画の世界観の背景にあることが、青春の儚さや切なさ、その「神聖性」を一層際立たせているように感じます。
「坂道のアポロン」は知念侑李のピングレ
男の友情と葛藤を描いているという点では、自分の大好きな映画、中島裕翔主演の「ピンクとグレー」と共通したものがあります。
鑑賞前にたまたま「知念侑李のピングレ」というタイトルの記事を書きましたが、まだ観てないJUMPファン、特に裕翔担の方は、「坂道のアポロンは超爽やかなピングレ」と思っていただいていいです(笑)←いいのか?
あ、裕翔担の方は、きっとドラムの千太郎役が中島裕翔だったら・・・と妄想したくなると思います。
自分も千太郎が最初にドラムを叩いたシーンでそう思いました。いろいろ裕翔くんにピッタリの役ですし。
でも、中川くんの演技は素晴らしく、演技力に不安のある知念くんをカバーして、さらに新たな魅力を引き出してくれていました。
途中から、この空気感は知念・中川だからこそ作れたんだなと納得させられた最高のコンビでした。
「坂道のアポロン」は男性にこそ見てほしい
自分が入った回は、初日ということもあってか満席でしたが、やはり大多数は女性でした。
しかし、「坂道のアポロン」は是非、男性にも見てほしい映画です。
メインで描かれているのは男同士の友情の話ですし、「一生ものの友達」の大切さを教えてくれる作品だからです。
高校まで孤独だった自分は、幸いなことに、大学時代に「一生ものの友達」といえる人に出会えました。
その人は隣の席で号泣してましたが・・・
ゆうすけ先輩とこの作品を一緒に観れて、本当によかったです。
律子の立ち位置は、先輩の彼女さんに似てるなと密かに思ったり(笑)
薫と千太郎はジャズを通じて会話し絆を深めましたが、自分と先輩にとってはJUMPがそれにあたるんだと思います。
改めて先輩にもJUMPにも感謝しないといけないと思いましたし、その大切さを見つめ直すことができました。
原作を読んでいなかったので、てっきり千太郎は死ぬものだと思い込んでいて、紆余曲折はあるんですが、ハッピーエンドだったことに驚きました。
すっかり佐世保と薫たちの世界に入り込んでいたので、「あーよかった」と素直に思いましたし、鑑賞後こんなにも温かい多幸感を与えてくれる映画だったんだと、いい意味で裏切られました。本当に素晴らしい作品でした。
映画「坂道のアポロン」は、知念侑李でしか成立しない、知念侑李の作品になっていました。
是非、映画館で「坂道のアポロン」という、一生ものの体験をしてみてください。
読んでいただきありがとうございました。