「ゆうてぃー、ボクだよ」
って・・・知念！？
俺は、俺の顔をまじまじと見た。
まるで鏡を見ているようで
でも、それは、知念も同じだ。
俺と知念は入れ替わった
中島裕翔が知念侑李に、知念侑李が中島裕翔に
つまり、俺の中身は、知念ってこと？
混乱していると
裕翔は、爽やかな笑顔を浮かべて山田に告げた。
「じゃあ、知念は俺が連れて帰るから」
そして、俺を引っ張って、部屋を出ようとする。
「え、ちょっ俺は・・・」
俺は、山田を選んだ。
でも、今はこの入れ替わりを元に戻すことが先決
そのヒントを知念は知っているかもしれない
いや、知らなくても、この不可解な現象について、知念と２人だけで話す必要がある。
「行くな・・・」
山田は悲しい目で俺を見た。
「涼介、ごめん・・・」
俺は裕翔と、山田の部屋を、出た。
タワーマンションのエントランスを抜けると、敷地内に公園があった。
住人専用にしては、かなりの広さがあり、緑も多かった。
星空の下、ベンチに腰を下ろした。
ふたりとも山田の部屋を出てから一言も発していない。
沈黙が夏の夜に落ちる
先に口を開いたのは、俺の姿をした知念だった。
「ゆうてぃー、涼介とはどこまでいったの？」
「い、いきなりその質問かよ」
「気になるでしょ。一応、涼介と僕は付き合ってるんだから」
「そ、そうだよね。いや、その、ごめん、いろいろあったけど、一線は越えてないから」
「そっか」
自分の顔をした人間とこんな会話をするのは、すごく不思議な感覚だった。
「てか、驚いたよ。まさかおまえら付き合ってるなんて」
「気付いてなかったんだ・・・伊野ちゃんは薄々かんづいてたけど」
「そうなの？いや普通気付かないでしょ」
「・・・で、涼介のほんとの姿、知ってどう思った？」
「あんなにドＳとは（笑）」
「え、涼介ってドМだよ」
「うそでしょ！？だって、言葉攻めとかしてきたし」
「ああ、前戯ではね」
ぜ、前戯って・・・
てことは、本番では、知念がＳで、山田がＭってこと！？
俺の山田像、完全に崩壊
「知らないってことは、ほんとに一線は越えてないんだね！これで安心したよ！」
「なんだそれ」
「僕は知ってたよ」
「え、何を？」
「裕翔が涼介のこと、ずっと好きだったって」
「あ、いや、さっき山田が言ってた『ずっと好きって言ってくれた』ってのは、いろいろあっての言葉の綾で・・・」
「あのさあ、こうなったらお互い秘密はなしにしよ？」
「・・・あ、うん」
「てかさー、僕目覚ましたら、ゆうてぃーの部屋だったじゃん。ベッドにａｎａｎ放置されてるし、ゴミ箱に使用済みティッシュあるし」
「そ、それはっ！」
顔が赤くなるのが、自分でわかった。
「床にオナホころがってるし」
「うそ、オ、オナホは使ってない！使ったのは右手だけ」
「ふふっ、ゆうてぃー自供（笑）やっぱこっちの手かー」
右の拳を俺の前に突き出した。
「知念のバカ」
「でも今回のことがなくても、ゆうてぃーが涼介のこと好きなのは知ってた」
「え、なんでわかったの！？」
「見てればわかるよ」
知念は暗闇に目線を向けたまま、つぶやいた。
「見てればわかる。わかるんだ」
しばらく沈黙が続いた。
今度は俺から、一番聞かなければならない質問を切り出した。
「どうしたら、俺たち元に戻れると思う？」
「そんなの・・・僕にもわかんない」
「わかんないのかよ！」
「僕だって、起きたら裕翔になってて驚いたんだから」
「なんだよ、救世主みたいに登場したから、知念なら知ってるかと思った」
「涼介は突然現れた白馬の王子様に恋人をさらわれたって今頃泣いてるかもね（笑）」
「あ、さっきの山に対しての態度、ヒドすぎ。言い過ぎだろ」
「あれは裕翔が言ったんじゃん（笑）」
「ひど。山は俺に言われたと思ってるんだぞ」
「いいのいいの、涼介はドＭだからあれくらい言った方が。ほぼ事実だし」
知念て、やっぱドＳだ。
そう考えると、山田が俺の反応をいちいち新鮮がったのも妙に納得した。
「それよりさ、僕たちなんで入れ替わったんだろう」
知念は、初めて俺の目を見た。
「わからない、けど・・・今夜、ペルセウス座流星群にお願いをしたんだ。それで目を覚ましたら知念と入れ替わってて、山田の部屋にいた」
「・・・トリガーは流星群ってことね」
「正直言うと、『神様、山田と付き合いたい』って流れ星にお願いした」
「・・・そっか、そういうことか・・・」
知念はベンチから立ち、星空を見上げて、しばらく考え込んでいた。
そして、何かを決心したかのように振り向くと、こう言った。
「ゆうてぃー、大事な話があるんだ」
つづく