☆テツコの部屋☆~映画評論館~ -2ページ目

変な家

51点

今週の映画ランキングで、ホラーにしては珍しく1位になった作品。出演者が妙に豪華で内容に合っていたのと、意味ありげで面白そうなタイトルが要因かな。ただ結論から言うとあまり面白くない。
YouTuber(間宮祥太朗)とミステリー愛好家(佐藤二朗)が組んで、都内にある一軒家について調査する展開。内容は「変な家」というより「少し違和感のある間取り」という感じ。調べる過程で、死体遺棄事件と先祖代々の呪い、儀式に行きつく構成。
ミステリーよりもホラーの要素が強いかな。突然大きな音で驚かせたりの演出は古典的だが、ストーリーがそこそこ奥深いのが逆に恐怖感を削いでいる印象。ホラーならホラーともっと攻めてもよかった。
そして終盤、ぞわぞわっと来るような気持ち悪いラストを目指したのかもしれないが、例えば前回紹介した『呪詛』のような完成度には遠く及ばず。近年量産されている粗悪な邦画の域を出ていない。
人気俳優とベテランを融合した味のあるキャストなものの、そこは無駄遣い。いやいやヒットしてるなら無駄遣いではないか(笑)。

監督:石川淳一
出演:間宮祥太朗、佐藤二朗、川栄李奈、長田成哉、DJ松永、瀧本美織、根岸季衣、高嶋政伸、斉藤由貴、石坂浩二

呪詛

86点
劇場公開ではなくNetflixで配信された作品。実話を基にした、台湾史上最も恐ろしいホラー映画という触れ込み。
母親が娘を呪いから助けようとする展開。ベースは『エクソシスト』だが他にも『ポルターガイスト』『リング』『ミッドサマー』あたりに影響を受けている印象。
とりあえず全編、気持ち悪い描写が多い。残虐なグロというよりは、虫とかブツブツとかのゾワゾワ系なので、そういうのが苦手な人は注意。
ストーリーはオーソドックスだがほどよく凝っているので、単調にはなっていない。ただ過去の名作ホラーを彷彿させる場面も多々あり、そこをパクりと思ってしまうとホラー見慣れている人は白けてしまうかもしれない。
しかし全編、視覚的に攻めたと思わせておいて、ラストで突きつける衝撃の事実はなかなか驚いた。内容やスタイルは全く違うが、例えば『リング』のラストでテレビから貞子がゆっくり出てくるような、あの嫌~な気分をもう1度味わったようなそんなエンディング。
台湾映画なので泥臭い部分も多々あるけれど、東アジア特有の背景が妙に恐ろしい映像にマッチしている。登場人物や言語など、日本人とは似て微妙に異なるその雰囲気は、洗練された洋画より不気味さが上かもしれない。

これはなかなか掘り出し物です。

監督:ケヴィン・コー
出演:ツァイ・ガンユエン、ホアン・シンティン、ガオ・インシュアン
2022年  111分
英題:INCANTATION

夜明けのすべて

70点

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』で恋人/夫婦役だった松村北斗と上白石萌音の主演作品。
女性はPMS(月経前症候群)で月に1度イライラが抑えられなくなり、男性はパニック障害で気力を失っていた。この2人が職場で出会い、最初は無関心だったが徐々に共感し、心を開いていく展開。
精神的に不安定な男女だけど体自体は健康なので、映画の流れにも悲壮感があまりない。

相手の「内面の病気」に干渉し、いつしかおせっかいを焼くようになり、2人だけでなく周囲の人たちも巻き込みだんだんと暖かい気分になれるところがこの映画の特色。劇中にある「夜明けの直前が一番暗い」というセリフが、本作の内容を一番よく表していると思う。
個人的には朝ドラでこの2人の演技に感動した1人なので期待も大きかったが、題材としてはまずまずの印象。脇役で出ている今売り出し中の俳優やベテラン陣もいい味出しており、ともすれば暗くなりがちなテーマを爽やかにまとめている佳作。感動で涙が流れるようなタイプではないけど、見た後はそれなりに清々しくなれるかな。

まぁただ現実はこう上手くいかないものでもあるので、映画と割り切って見るべし。


監督:三宅唱
出演:松村北斗、上白石萌音、渋川清彦、芋生悠、藤間爽子、宮川一朗太、丘みつ子、りょう、光石研
2024年  119分

落下の解剖学

67点

2023年のカンヌ映画祭最高賞(パルムドール)受賞作品。でも検索すればわかるが、パルムドールってだいたい無名の作品ばかり。本当に最高賞なの?って首をかしげるような作品も獲っている。まぁそもそも映画祭と映画賞ってまるで違うものなのだが、その辺の指摘についてはいずれまた。
さてここはネタバレしてますので注意。

フランスの山奥にある山荘で小説家ヴァンサンが転落死する。嫌疑をかけられた妻サンドラ、現場にいた11歳の盲目の息子ダニエル。裁判で暴露されていく家族の軋轢、という展開。
結果的にこの映画、実は最後まで真相は明らかにならない。裁判で結論が出るだけで、サンドラが本当にやったのかどうかはわからないエンディングになっている。最近こういう丸投げのサスペンス多いよなぁ、という印象。

余韻を残した終わり方が好き、という人もいるようだが、個人的には良い締めが見つからなかったから、曖昧な終わり方に逃げているようにしか見えなかった。
2時間半という長めの時間の中、映画は美しい雪山映像に刺激的な映像(特に犬)を交えて退屈しない構成になっている。当然そこは犯人捜しだけでなく、夫婦間が抱える問題点をあぶり出した人間ドラマに重きを置いているということなんだろうけど、果たして見ている側で真相を知りたくない人いるのかな?って話になってくるわけで。

2017年に数多くの映画賞に輝いた作品『スリー・ビルボード』も、散々煽って真相は結局中途半端に終わらせていたが、近年あらゆる映画がネタ切れの時代なのかなとちょっと残念。

監督:ジュスティーヌ・トリエ
出演:ザンドラ・ヒュラー、スワン・アルロー、ミロ・マシャド・グラネール、アントワーヌ・レナルツ
2023年  152分
英題:Anatomy Of A Fall

ボーはおそれている

58点

『ヘレディタリー 継承』『ミッドサマー』のわずか2本で若手ホラー映画監督のトップに登りつめたアリ・アスターの、注目の長編映画3作目。主演は『ジョーカー』のホアキン・フェニックス。
上映時間179分、R-15指定。そして最後まで見ればわかるが、とにかく奇妙な作品。
ストーリーを要約すると、主人公ボーの母親が死んで葬式に向かう。その前後に起こる出来事をダラダラと垂れ流した話。
世界観はどこかジム・キャリーの『トゥルーマン・ショー』に似ている気がした。ただエログロ、そして意味不明度はこちらの方がはるかに上。ホラーと言うよりはむしろブラックユーモア満載のコメディといった感じだが、なにしろどぎつい映像もてんこ盛り。

映画は冒頭から頭おかしい連中がちょこちょこ顔を出すも、それでいて日常は保っているので、その辺の違和感が終始映画を支配している。
起承転結は曖昧で特にオチがあるわけでもなく、3時間近く引っ張って突然終わる。エンドロールを見ながらこんな終わり方でいいのか、と思った人もたくさんいただろう。
ネタ切れと言われて久しいハリウッド。個性を持った作品を作るには、もはやこれだけブチ切れた内容じゃないとダメなのか。

アリ・アスター監督まだ36歳。自らの存在をアピールするために、「よくわからないけど凄そう」という方向へ誤魔化してるようにしか見えない。誰が見ても面白い映画を作るのができないから、こういう手法を取ったのではないのかと勘ぐってしまう。
少なくともアリ・アスター全く知らない人が突然この映画見せられたら、なんじゃこりゃとしか思わないであろう一本。21世紀はまだ前半だが、映画界はすでに世紀末の様相。


監督:アリ・アスター
出演:ホアキン・フェニックス、ネイサン・レイン、エイミー・ライアン、ヘイリー・スクワイアーズ、ドゥニ・メノーシェ、アルメン・ナハペシャン、カイリー・ロジャース
2024年  179分
原題:Beau Is Afraid

コット、はじまりの夏

82点

欧米の映画賞で数々の受賞を記録し、日本でもミニシアターランキングで上位に食い込んだ知る人ぞ知る高評価の話題作。

舞台は1981年のアイルランド郊外。4人兄妹の3番目・9歳の女の子コットが、母親の出産のため従妹夫婦にひと夏の間預けられる展開。冒頭は『思い出のマーニー』を彷彿させたが、本作はファンタジー系ではなく現実的なお話。お化けや幽霊、不思議な生き物は出てこない。


とにかく主人公のコットちゃんが滅茶苦茶可愛い。この可愛さだけで映画が引き立っている。逆に実家の父親は性格に難アリの悪役的存在。そしてコットちゃんは家でも学校でも浮いた存在で、半ば捨てられるようにこの家に預けられる。
さて預かった先の従妹夫婦、優しいおばさんと不器用だが実はコットと仲良くなりたいおじさん。大自然の環境の中、人間味のあるのどかな生活を描いた展開。こういう田舎を舞台にした単純な内容は個人的に大好き。
可愛い風貌とは裏腹に、例えばおねしょとか色々と欠点を抱えるコットちゃん。しかしこのひと夏の間での貴重な経験が、見てるこちらにもしみじみと伝わってくる構成。
クライマックスで訪れる別れ。けどラストがどうなったかは観客の想像に任せる手法。その余韻を残す終わり方に涙した人も多いと思う。

まぁコットちゃんみたく可愛い子なら少しくらい出来が悪くてもいいが、俺みたいなブサイク生意気なガキだとこうはいかないんだろうなと別の涙が流れたり(笑)
 

監督:コルム・バレード
出演:キャサリン・クリンチ、アンドリュー・ベネット、キャリー・クロウリー、マイケル・パトリック
2022年  95分
原題:An Cailin Ciuin

劇場版 君と世界が終わる日に FINAL

62点

2021年に日本テレビ日曜22時半枠で連続ドラマで放送された『君と世界が終わる日に』。視聴率はイマイチだったが、その後有料動画サービス「Hulu」でシーズン4まで配信。そして今回は劇場版でFINALとなる。
まず冒頭で、過去の回想を含めなぜこうなったのかが語られる。そして本作はストーリーが独立しているので、今まで全く見たことがない人でも問題なく見れるのが魅力。
主人公の響(竹内涼真)が相変わらず中心だが、他のキャストは一新された。今回初めて出てきた今風の新鮮な役者が多数出ているため、ちょっと面食らう人も多いかもしれない。まぁそこは単独の映画と割り切って見て問題ないかな。
映像は映画だけあって、ゴーレム(ゾンビのこと)の迫力ある描写は海外のそれと比べてもレベルは高い。しかし本作の特徴は、とにかく「泣ける場面」がやたら多い事。ゾンビ作品に感動を持ち込むって海外でもそうそうないと思うんだけど、その辺本作は名ゾンビドラマ『ウォーキング・デッド』の美味しいどこ取りをしている印象。
行動がほとんど高層タワーだけで進む展開は『ダイ・ハード』を彷彿。他にもロメロゾンビや『バイオハザード』など、ちょこちょこパクりを混ぜてるため、オリジナル度は低い。ホラーやゾンビを見慣れてる人だと、どっかで見た場面が満載。
そして何より物語にハマれない人だと、もういちいち出てくるお涙頂戴の感動シーンがウザく感じてしまうのでは。そこは日本の実写邦画特有の陳腐なイメージが拭えなかった。


なお「FINAL」はあくまで主人公・響に関するストーリーが完結というだけで、物語はまだまだ続きそうな雰囲気を持たせている。
ドラマも配信も、そしてこの映画版も大してヒットしてない状態で「きみセカ」をどこまで引っ張るのかは少し興味ある(笑)

監督:菅原伸太郎
出演:竹内涼真、高橋文哉、堀田真由、板垣李光人、窪塚愛流、須賀健太、吉柳咲良、黒羽麻璃央、吉田鋼太郎
2024年  116分

哀れなるものたち

80点

まず本作はR-18指定。エロシーンや辛辣なブラックユーモアがてんこ盛り。『アメイジング・スパイダーマン』『ラ・ラ・ランド』などでお馴染みエマ・ストーンが主演だけど、彼女が好きで美しい幻想を抱いてるファンは見ない方がいい。


一見してまずティム・バートン監督やテリー・ギリアム監督作品を彷彿させる、ある意味おとぎ話。個人的には『シザーハンズ』あたりを少し思い出した。背景の映像美も心に残る。
しかしとにかく内容はどぎつい描写のオンパレード。


舞台はビクトリア朝のロンドン。橋から飛び降り自殺した女性ベラ(エマ・ストーン)が主人公。科学者(ウィレム・デフォー)が、死んだ彼女に赤ん坊の脳を移植して蘇生させ、体は大人だが知能が赤ん坊というベラが誕生。彼女の珍道中を描いた物語。
時代とは裏腹のSFチックな街並みに、ベラの奇想天外な行動がメイン。自慰行為も性交も容赦なく繰り返されるものの、映画自体にそれほどいやらしさが感じられないのはベラ自身をコミカルに表現した、風変わりなスタイルが根底に存在するからだと思う。
しかし過去に散々美女を演じてきたエマ・ストーンが、近年はキワモノ役を演じる事も多く、特に本作を見るとそこは目を背けたくなるような場面も多々あり、映画としては面白いんだけどエマ・ストーンどうしちゃったの?と感じたりもしてそこは実に不思議な印象。
怖い物見たさというか、見てはいけない物を見てしまったというか。あくまで女性ではなく個性派役者として、エマ・ストーンがひと皮むけてしまった。そこを賛と取るか否と取るか。
やっぱり本場ハリウッドの体当たり演技は半端ないと、衝撃受けた人も多かったのでは。個人的にもこの映画をどう受け止めていいものか、見終わったあと感想に苦しむ。

監督:ヨルゴス・ランティモス
出演:エマ・ストーン、ウィレム・デフォー、マーク・ラファロ、クリストファー・アボット
2023年  141分
原題:Poor Things

 

さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち 4Kリマスター版

91点

2024年1月に4Kリマスター版が公開されている昔の名アニメ『さらば宇宙戦艦ヤマト』。

もともと1974年にテレビシリーズ『宇宙戦艦ヤマト』が放送され、続編/完結編として1978年に劇場公開されたのが本作。

 

しかし本作公開後、さらなる続編を求める声に応える形でテレビシリーズ『宇宙戦艦ヤマト2』が映画の直後に放送された。これは『さらば宇宙戦艦ヤマト』の終盤を大きく修正。主人公古代進やヒロイン森雪はじめ、映画版では死んでしまったほとんどの乗組員が生き残るラストに改悪されたもの。

これで無事に「宇宙戦艦ヤマトシリーズ」は存続のはこびとなったわけだが、代わりに本作は残念ながらなかったこととされてしまった。

 

というわけで今回のリバイバル上映は、超名作だった本作に再び陽の光を当てたという意味で実に画期的。ヤマトはここでいったん完結しているという事実を思い出させる意義のあるリバイバル上映。見たことがない人にはぜひおすすめ。2018年にリメイクされた『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』なんかよりこっちの方がずっと泣ける。

 

本作の見どころは、まず地球に理不尽に攻めてきた彗星帝国の戦力が絶大なこと。地球防衛軍は瞬殺され、ヤマトも苦戦しまくり。前作テレビシリーズで活躍したお馴染み乗組員たちも、終盤でどんどん死んでいく。クライマックスでは主人公の若き艦長・古代進が、すでに死んでいるヒロイン森雪の死体と共に、ラスボス超巨大戦艦へと特攻するというエンディング。当時の子供たちはこの絶望的展開にぶったまげただろうなぁ(笑)

 

というわけで実に46年ぶりに復活したアニメ史に残る名作。興味ある人はぜひ。

 

監督:舛田利雄
出演:富山敬、麻上洋子、納谷悟朗、仲村秀生、青野武、神谷明、ささきいさお、伊武雅刀、永井一郎
1978年  151分

サンクスギビング

68点

クエンティン・タランティーノとロバート・ロドリゲス監督が2007年に製作したB級ホラーアクション作品『グラインドハウス』。
その中で存在しない映画の予告編がお遊びで数本流れたが、そのうちの1本を16年後に実際に製作したのが本作。
監督は『ホステル』や『グリーン・インフェルノ』など強烈なホラーでお馴染みイーライ・ロス。
『サンクスギビング』は感謝祭のこと。アメリカでは11月の祝日でもある。その日に起こる恐ろしい殺戮を描いた展開。
殺人鬼題材のホラーだと近年は『テリファー』の公開で、もはやこれ以上グロい描写は出ないというところまできているため、本作はグロ映像ももちろんだけど、どこかコミカルで演出にも凝り、犯人は誰か要素も含め全体的に飽きさせない作りになっている。
そして知る人ぞ知るオマージュも満載。『ゾンビ』『悪魔のいけにえ』『13日の金曜日』『血のバレンタイン』『スクリーム』などなど、過去の名ホラーからの引用は、ホラーファンなら気付いたら思わずニヤリとしてしまいそう。残酷描写の中にお笑いを混ぜる、ある意味異常な世界ではあるものの、もはやネタ切れが深刻なハリウッドでホラー良作を作ろうと思ったら、タランティーノとかイーライ・ロスみたいな一本頭の線の切れたような人が、突き抜けたアイデア出さないとダメなんだろうな。
ただし個人的には楽しめた反面、どこか物足りなさも感じた。意外とオーソドックスで、イーライ・ロスにしては振り切ってない印象なんだな。

R-18指定で確かに目を覆うようなグロい部分もあるんだけど、こういう映画を見慣れてしまっている自分がむしろ怖い(笑)

監督:イーライ・ロス
出演:パトリク・デンプシー、ネル・ヴァルラーク、アディソン・レイ、ジェイレン・トーマス・ブルックス、マイロ・マンハイム
2023年  106分
原題:Thanksgiving