§不快指数 | なんてことない非日常

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§不快指数




 琴南 奏江は、鬱陶しそうに長い黒髪をばさりと手で払いのけた。



「・・・・鬱陶しい」



低いひんやりとした声に、隣にいた最上 キョーコは肩をびくっと震わせた。



「っ・・・え?」



キョーコは奏江の言葉に、自分の行動を振り返った。



朝一番に奏江に会えた嬉しさから飛び付き、全力で振り払われたのに華麗に着地して舌打ちをもらったことだろうか?

それとも、お昼過ぎまで一緒の仕事のため奏江行きつけのマクロビ料理のレストランまでついていったことだろうか?しかしそこでは機嫌はいつもと変わらない様子だったのが・・・


そこまで考えてキョーコはハッとした。

今日はまだ奏江の芳しい香りを堪能していなか「しなくていいから!!」



いつの間にか考えが口をついて出ていたらしいキョーコに、奏江はすかさず突っ込みを入れていた。



「まったく、その変態思考どうにかならないの!?」



「ええ!?だってモー子さんのことこんなに好きなんだから、仕方ないと思うの」



「やめてよ!ああっ~~!!ただでさえこのジメジメで鬱陶しいのにっベタベタしないで!」



「ううっ湿度80%の中にいてもドライな対応・・さすがモー子さん」



キョーコとのやり取りに残っていた体力を一気に削いだ気がしたモー子は脱力して項垂れた。



「でも、もう少しで終わりそうだし・・・」



脱力して物言わなくなった奏江に気付かずキョーコは、半そでのラブミー部のつなぎで大きく息をつきあたりを見渡し一息つこうとした時何かに気が付いた。



「つ・・・・マリアちゃん!?」




何か先に言いかけてすぐに親しい少女の名前に切り替えたキョーコが驚きの声をあげると、少し先笑顔で手を振る宝田 マリアの姿が奏江の目にも確認できた。


(また鬱陶しいメンバーが増えた・・・)



長い髪が邪魔になってきた奏江は、それを一つにまとめながら先にマリアの元へと駆けて行ったキョーコの後を追った。



「お姉さま!!」



「マリアちゃん!どうしたの!?こんなところまで」



「お姉さまが撮影で使われるひまわりの花を取りに行っているっておじ様に聞いたから、蓮様に連れてきてもらったんですわ」



「そうだったんだ・・・・おはようございます!敦賀さん・・社さん、こんにちは」



「こんにちは~キョーコちゃん、あっ琴南さんも」



社 倖一の親しみやすい笑顔を受けても奏江はただ会釈を返しキョーコと同様に事務所の大先輩俳優の敦賀 蓮にも挨拶をした。



「お疲れ様です・・社さんに敦賀さん」



「お疲れ様、暑い中大変だね?」



「いえっ!あと一息で終わりですし!!」



「そうですね・・・ほぼほぼこの子が頑張ってましたから」



「へえ、そうなんだ~がんばったね?キョーコちゃん」



「いえっ!午前中はモー子さんに頼りっぱなしだったんで・・・」



「衣装さんの手伝いなだけでしょう?荷物ほとんど持っていたのもあんたじゃない」



「でも、衣装さんの指示てきぱき聞けてたのはモー子さんだったし・・・・」



「あははは、二人とも本当に仲良いね?」



二人のやり取りに社が笑ってそう言うと、キョーコは嬉しそうな顔をした。



「やっぱりそう見えます!?今日も衣装さんにそう言われて・・」



「いいえ、ちっとも仲良くありません!まだ仕事が残っていますのでここで失礼します」



キッパリそう言って仕事に戻る奏江の言葉に凹むキョーコを、マリアも社もオロオロしながら励ましの声をかけていた。

その姿をちらりと見て、奏江はモヤモヤしている感情をひまわりの花を摘むことでうっぷん晴らしをしていく。


もう一度、キョーコの姿を確認すると今度は蓮に何かを言われて頷きながらも頭を撫でてもらって奏江が手にしているひまわりよりも華やかな花を咲かせるように笑顔を見せていた。



「・・・・ふん!本当に仲がいいと思うならちゃんと報告ぐらしなさいよね!?」



独り言をこぼすと、額の汗が滑り落ちてきて目の中に入りジワリと痛みを連れてきた。

奏江は日焼け予防の長袖でゴシゴシと目元拭うと戻ってきたキョーコを一睨みした。



「!?ご、ごめんっ戻ってくるのが遅かった?」



「・・・別に!早く終わらせないと私先に帰るわよ!?これ以上焼けてたまるもんですか!!」



「ご、ごめんね!!?急ぐから!!」



するとキョーコは恐ろしい勢いでひまわりを摘み始めた。



「・・・・・」



そんなキョーコを見つめる蓮に眼を飛ばした奏江は、大きくため息をついた。



「あ~あ・・・本当に・・鬱陶しい・・」



首にかけていたタオルで顔を覆うと、しばらくそのまま止まっていた。




「ぜえ・・ぜえ・・モー子さん・・終わったよ?」



汗をぽたぽた落とすキョーコが戻ってくると、奏江はすでにいつものクールな表情に戻っていた。



「よし、じゃあ終了。引き渡したらアイス屋にいくからアンタのおごりで」



「え!?アイス屋!?モー子さんが!!?そ、それはいいけど・・・」



ぐいぐいと引っ張られるキョーコは何が何だかわからないという様子で、二人の様子を見ていた蓮の元に連れてこられた。



「敦賀さん」



「え?・・なにかな?」



急に奏江から挑まれるように睨み付けられた蓮は、驚きながらも奏江に返事をした。



「この子はこれからも私の親友ですから、そして一番のライバルですから!・・それでは失礼します!!」



「え!?モー子さん!!?」



ポカーンとする一同を残し、奏江はキョーコを引きずってその場を立ち去って行った。



「な・・なんだったのでしょう?・・・蓮様?」



「・・・・・・・ああ~・・・まあ・・・・・・宣戦・・布告・・・かな?」



「???」



首を傾げるマリアに苦笑して見せた。

そんな蓮は二人の背中を見送ると、これからどうしようかと楽しそうに思案しながらアリアを送り届けるため社と共に近くに停めた車に戻り始めたのだった。



「モー子さん!?モー子さんってばっ」



ずっと引きずられていたキョーコはようやく止まった奏江にほっとすると、向き直った。



「どうしたの?なんだか・・いつものモー子さんらしくないよ?」



「そんなの・・アンタのせいでしょう・・」



「へ?」



「もう、あっついの!鬱陶しいの!!不快指数100!!ううん!!それ以上よ!!」



「ええ!?・・・モー子さん!?顔真っ赤・・・」



「へぇ・・・っ!?」



キョーコにそう言われた途端、奏江は目の前が真っ暗になって倒れたのだった。



無事病院に運ばれた奏江は熱中症だったらしい。

倒れた奏江は、キョーコがパニックになりながら蓮に連絡してすぐに車に乗せられ病院に運ばれたらしい。

すべて『らしい』というのは、先ほど目を覚ましてキョーコから聞いたからだ。



「・・・悪かったわね・・・」



点滴を打たれたら回復した奏江は落ち着きを取り戻して、キョーコに素直に謝った。



「ううんっ具合が悪い時は誰だって機嫌も悪くなるものよ」



「・・そうじゃなくて・・・あんたが・・・」



奏江は少し口ごもったが、まだ凝り固まっている不快の素を出さないことにはまた同じことを繰り返し先ほど目を覚ました時に見た泣き出しそうなキョーコを見てしまうことになると思うと意を決して口を開いた。



「・・・モー子さん?」



「あんたがっ・・・ちゃんと言ってくれないから・・イライラしたり、思うほどアンタに信用されてないって思っちゃうじゃないっ」



「???・・なんのこと?」



まだ話してくれないキョーコに、奏江は布団をぎゅっと握りしめて叫んでいた。



「だから!!・・・敦賀さん・・と、付き合い始めたんでしょう?」



「・・・・・・・へ!?はえっ!??なっ!?ええええっ!!?」



奏江の予想していた返事よりもさらに上を行くほどのキョーコの慌てっぷりに、キョトンとなり首を傾げた。



「付き合ってるんでしょう?」



念押しのように奏江に聞かれたキョーコは、首がもげるかというほど左右に何度も首を振った。



「そんなっ!恐れ多い!!!・・・ただ・・・私が・・・・・・スキ・・・・・・なだけで・・・・・」



キョーコのその言葉に、今度は奏江が目玉が落ちそうなほど目を剥いた。



(はあ!?じゃあ、最近これ見よがしにいちゃいちゃいちゃいちゃ・・・していたのは!?)



「つ、敦賀さんとなんて・・・そんな釣合の取れないことなんて夢のまた夢で・・」



キョーコは指と指をツンツンと合わせたり、離したりしながら真っ赤になってもじもじしていた。



(鬱陶しい)



「そう?」



「そうだよ!こんな地味で華のない・・・芸能人として終わっている私なんかに・・・・」



自分で言っているうちに絶望的になってきたのか、陰の気をまき散らしながら沈み込むキョーコに奏江は青筋を立てた。



「・・・ああ~~もー!鬱陶しい!!ウジウジこんなところでしないでよ!そんなの言ってみなくちゃわからないでしょう!?華がないなら、敦賀さんの華を奪う勢いで行けばいいでしょう!?」



キョーコの丸まった背中を勢いよく叩いた奏江は、そのままキョーコを病室を追い出した。



「ウジウジして行動を起こさないなんて・・それでも私の親友でライバルなの!?」



奏江に発破かけられたキョーコは、戸惑いながらも病室をでてどこかに駈け出して行った。



「あ~・・・あ・・点滴・・・」



キョーコの姿が見えなくなると冷静になった奏江はいつの間にか腕から外れた針から、液が落ちているのを呆然と眺めていると部屋の空け放たれていたドアがノックされた。



「琴南さん、具合はどう?」



「・・・・あまりよくありません」



お見舞いに訪れたのは蓮で、奏江は不快そうに眉根に皺を寄せた。



「あはは・・・そうか・・じゃあ、長居しない方がいいかな?・・これ、一応お見舞いの花・・今日中には退院できそうみたいだけど」



苦笑いした蓮が持ってきたのは紫陽花で赤紫と青紫の花弁が可憐だった。

その花を受け取り、苦虫を噛み潰したように眉根を寄せて奏江は礼を言った。



「・・・ありがとうございます・・・あと、ここまで運んでいただきありがとうございました」



「いいえ・・どういたしまして」



淡々とした挨拶のみだけする奏江に、蓮は苦笑して頭を下げた。



「君にとっても大切な親友であることは分かっているつもりだから・・・」



「・・・は?」



唐突にそんなことを言う蓮に、頭が追い付かず思わず素で返事した奏江だったが先ほどの会話を思いだし真剣な面持ちの蓮を見つめた。



「・・・・あの子を泣かせたら本当に・・・地獄をみますよ?」



絶対零度の表情を浴びせた奏江に、一瞬驚いた蓮だったがコクリと頷くと颯爽と病室を後にした。


そんな背中を見送っていると、看護師さんが飛んできて奏江は散々に怒られたのだった。



(なんで私がこんな目に!?・・・ああ~~!!もー!!本当に鬱陶しいんだから!!)



奏江が散々に叫んだおかげか、翌日には梅雨明けも発表された。

のだが奏江の不快はさらに増した。

なぜなら・・



「つ・・敦賀さん・・まだお仕事行かなくていいんですか?」



「うん、もう少し最上さんをチャージしてからね?」



ラブミー部にていちゃいちゃする二人に、青筋を立てながらも文句を言えないのは自分が発破をかけたせいであったため奏江は我慢していたのだが・・・。



「最上さんはひまわりの花みたいだね?」



「ええ!?・・・あ・・でも、太陽を追いかけるのが得意なのは似ているかもしれません」



「追いかけるって・・・じゃあ、最上さんに追いかけてもらえるように頑張らないとな・・」



「そんな!もうとっくに敦賀さんをずっと追いかけてます!」



「あはは・・ありがとう」



「いえっ・・・えへへ・・・」



(・・・・やっぱり我慢ならんかもっ)



奏江の周りだけ不快指数は100を振り切り、爆発寸前だということをこの後二人は思い知るのだが・・・・

花瓶に挿した紫陽花はそんな様子を楽しんでいる様に、ゆらゆらと笑っいたのだった。




end