完全版は後記事です!

黒子のバスケ夢小説です。今吉翔一×同級生ヒロイン


三年引退後設定
素敵な今吉さんはログアウトしました



授業開始五分で、目の前の後ろ姿ははゆっくりと船を漕ぎ出す。


時折肘が机からずり落ちそうになるのを慌てて体勢を立て直すが、垂れ下がった頭が持ち上がることはない。


終了のチャイムが鳴れば、ゆっくりと振り返り、悪びれることなくこう言うのだ。


「うっかり寝てもうたわ。すまんのー…ノート貸して?」

理系コースの私達にとって、倫理や地歴の授業は、格好の内職か睡眠時間として使っている人が多い。
この男も例外なくそれに当てはまり、そして休み時間に私のノートを写していく。





「……諏佐に借りなよ」


「あいつの字、読みにくいし。**のノートよう纏まっとるしわかりやすいねん。頼むわー」

両手をあわせ、すまなそうな振りをする今吉に、結局私は写させてあげるのを許す。


分かりやすいのは当たり前だ。板書だけでなく、自分で調べたポイントや出題されそうな点を纏めてあるのだから。


事実、寝ているだけなのに今吉の公民の点数かなりよい。
地頭が良いから、写している時点で全て暗記してしまっているのだろう。
こんなに効率のよい勉強方法は他にない。


最初は授業中よく寝ている今吉に全国レベルの運動部主将って大変そうだなと、応援するような気持ちで始めたノートの貸し出し。


そのまま引退した今でも続いてしまっている。




「ほんま読みやすうて綺麗な字やわ。習ったりしてたん?」


「中学の時は書道部だったから……」


「へー…そうなん」



下を向いたまま右手が休まることなく交わされるたわいのない雑談。

新発売のコンビニスイーツや天気の話。
ほんと美容師が間を繋ぐためのような中身の無い会話。



「ありがとさん」

短い御礼と共に私のノートが戻された。



「毎回、毎回……もう見せないんだからね!」


少し乱暴にノートを鞄に入れて、教室を出る。






-------- デモオマエハケッキョクカスンヤロ




愛想良く上がった口角で、心無い笑顔が私を見送る。




ほんと私はバカだ。


眼鏡の奥で全てを見透かされ、都合よく使われてているとわかっているのに。


それでもやっぱり「貸して」と言われると、私は差し出してしまうのだ。