吉祥寺恋色デイズ
佐東一護のつもり

やまなし、オチなし、甘さなしの三拍子揃ったみかんちゃんバースディ話。










家を出て五分で一護の眉間に皺が寄った。


夕方から降り出した霙は雪に変わり、吉祥寺の街を白く覆い尽くす。
一昨日買ったばかりのスニーカーの内側に冷たい水が染み込み、踏み出す度にぐちゅりと音を立てる足先は不快極まりない。


傘を持つ右手と小袋を抱えた左手は冷たい風にさらされピリピリと痛む。


あいつなんでこんなクソさみー時期に生まれてんだよマジむかつく、と理不尽な苛立ちを抱えながら、一護は本日二度目のクロフネに向かっていた。





「みかんちゃん!誕生日おめでとー!これ僕がみかんちゃんをイメージして作った曲だよ。寝る前に聴いてね」


「わぁ。りっちゃんありがとう」


「**、俺からはアレンジメント」


「可愛い!!オレンジ色見てると元気が出てくる。ありがとハルくん!」


「これ福の湯プロデュースの入浴剤。肩こりに効く」


「銭湯が内湯勧めちゃうのはどうかと……でも早速試してみるね」


「農家繋がりで貰った静岡のお茶だ。なんかすげー高級品らしいぞ」


「玉露なのかな……ありがとリュウ兄、お茶の時間に飲んでみるね」



昼間幼なじみ達でみかんの誕生会をクロフネで開いた。


一護は一週間前から試作と改良を重ねた新作をバースディケーキとして持ってきていた。



「で、いっちゃんのみかんちゃんへのプレゼントは何?」


「は?目の前にあんだろ」


「だってこれ僕達がいっちゃんにお願いしたやつじゃん」


「お願いって……お前が勝手に俺に押し付けたんだろうが!」

「一護」


「りっちゃんも、せっかくの誕生会だよ」



竜蔵と春樹が二人の間に入りその場は凌いだが、一護は釈然としないままソファに背を預けていた。


皆で誕生会を開くと決まる前から、一護はみかんに誕生日ケーキを渡すつもりでいた。
なのにみんなからとされたことに納得がいかないまま会はお開きとなった。




「いっちゃん、ケーキ今まで食べた中で一番美味しかった!ありがとう」


満面の笑みで見送ろうとするみかんに、


「……お前、今日俺がいいって言うまで寝るな」


「え……?」


「いいか、ぜってぇ寝んなよ!」


「ち、ちょっと!いっちゃん!」




呼び止めるみかんの声を聞かずに店へと戻り、パティシエ服に着替えた。


剛司に貰った入浴剤で風呂に入った後、理人のピアノを聴き、春樹の作った花籠を眺めながら、竜蔵のお茶を飲む……



想像するとムカつくことこの上ない状況。





けど俺の菓子があれば、あいつら全部俺の引き立て役だろ。




二種類の焼菓子を作り、ラッピングまで終わらせると23時近かった。


足先の感覚がなくなる頃、二階から灯りが漏れているクロフネに着いた。


ジーパンのポケットからスマホを取り出し、アドレス帳の一番最初にタッチする。


『いっちゃん!』


「……起きてたか、ブス」


『いっちゃんが起きてろっていったんでしょ!』


「いいから早く降りてこい」


『なんなの、もうー』



文句を言いながら階段を降りてくる音が聞こえる。

斜めになったリボンを整える。 さっきは言いそびれた言葉と一緒に目の前に差し出した。






-----Happy birthday Mikan













悪態つくいっちゃんが好きなもんで……


去年の贈答文読んで恥ずかしくて死んでるのに、今年もまた懲りずに書いてみた。
そして多分来年もまた死んでる。



みかんお誕生日おめでとう!
こんな私ですがまた仲良くしてね!