ファースト・ラブ

ー無償に与えられる愛を君へ・・・ー




人は皆、何かのキズを抱えている。浅いものもあれば、海より深い傷も。

そして、その傷を癒すように人は人を求めるのだろう。

そうしなければ、生きていけないから・・・。



そんな少女がここにも一人。



「ようこそお越しくださいました。」

笑顔でお客に綺麗なお辞儀をする少女。

ここは京都の老舗旅館「松乃園」で、ここの女将がお客たちを部屋に案内し始める。

それを見送った後、少女はすぐさま、次の作業を始めた。



少女の名前は最上キョーコ。

彼女も癒えぬ傷をもっている。

決して一人では癒えぬ傷を・・・。



そして、海より深い傷を持った青年が少女の近くにいた。



「久遠!」

森の中を駆け抜けながら走り、キョーコが綺麗なブロンドをした青年をそう呼ぶ。

呼ばれた彼は振り返り、太陽によって翡翠の瞳が浮き彫りになる。そして、彼はキョーコの姿を確認すると微笑んだ。

「ごめんね、すこし旅館手伝いに手間取ったちゃったから。」

青年の元に駆け寄ったキョーコを息を整えながら謝り、

「いいよ、気にしなくて。俺もきたところだから。」

と彼は微笑んで首を振る。

「うん、ありがとう。」

責めないことをキョーコはお礼を言い、

「じゃあ、取りあえず座ろうか。」

「うん。」

二人は岩の上にへと座った。



青年の名は久遠・ヒズリ。

世界的有名なハリウッドスター「保津周平」のことクー・ヒズリとスーパーモデルのジュリエナの間に生まれた一人息子。

だが、その肩書きのせいで、久遠はたくさん傷ついた。

いっその事、枯れて消えてしまおうかと思ってしまうくらいに。

けれども、それでも消えずに済んだのは、芸能事務所LMEの社長、ローリィ宝田のお陰だ。

彼はクーの相談を聞き入れて、当時、15歳だった久遠を暗い暗い底から連れ出した。

それから、久遠はLMEに所属し、ブロンドの髪を黒に染め、瞳をカラーコンタクトで本来の色を隠し、

日本人「敦賀蓮」として芸能界活動を始めた。

そんな中、日本にきてすぐに、子供のときに出会って別れたキョーコと再会し、

彼女に正体を見破られた彼は大まかに過去、自分に起きた出来事を話した。両親の名前はオブラートように包み込んで。



それから二人、傷を癒すようにお互いに惹かれてあっていく日々が三年続き・・・。



キョーコは久遠の本来の優しさに惹かれ、久遠は彼女の存在そのものに惹かれていく。

神に導かれていくように・・・必然と。



「・・・私、東京の高校に行きたい。」

進路志望のプリントを握りしめ、キョーコは強い意志を宿した瞳である人物を捕らえている。

「必要ないでしょう。」

キョーコの言葉を訊いた人物・・・キョーコの母親は母親だとは思えない冷たい声できっぱりと反対し、

「そもそも、わざわざ東京の高校にいくなんて馬鹿げているわ。そんなお金ないのに。」

なんていうため、キョーコは椅子から立ち上がって

「お金出してなんていってない!ただ東京の高校にいくことを許してほしいだけ!お金のことは私が働いて出すから!」

必死に対抗する。それを訊いた母親は

「・・・わかったわ。勝手にしなさい。その代わり、私は助けたりしない。それが条件よ。」

条件を突き出し、キョーコはわかったとつげ、その場を後にした・・・。

「どうしよう・・・。」

そう呟いて、キョーコは座りこみ、深いため息をする。

「思わず、あんなこと言っちゃった・・・。」

そして、深く後悔。

だが、キョーコはどうしても東京の高校に行きたかった。

その理由は・・・。



「ああ、どうして・・・」

台本だと思われるものを片手にキョーコはぶつぶつ台詞を言っている。

実はキョーコ、久遠を影響に中学に入ると演劇部に入っていた。

だが、今まで演じたものはみんな小さい役ばかりで、今年でようやく主役を演じることになったのだ。

それでも妄想するくらいに御伽噺が好きなキョーコにとっては継母や義理姉、悪い魔女以外なら楽しくやっていた。

そしてついに主役であるジュリエットを役をもらい、キョーコはとても楽しそう。

そもそもキョーコが芝居に手を出した理由は久遠にある。

久遠があまりに楽しそうに芝居の楽しさを話すからだ。

だから、キョーコは興味をもった。何がそんなに面白いのだろうと。

そして、実際にやってみるとキョーコはその面白さに惚れこんだ。

久遠と同じ夢を抱くくらいにーー。