あれから四年後…。

分娩室の前、男が二人、椅子に座って待っていた。

すると赤ん坊の泣き声が聞こえたため、人はとっさに立ち上がると、分娩室の扉が開く。

『生まれましたよ。元気な男の子と…。』

分娩室から出てきたのは看護士で、彼女がそう言いかけると再び赤ん坊の泣き声が聞こえたと思えば、

『リリーさん、女の子も生まれましたよっ。』

もう一人、若い看護士が出てくる。

『あ。おめでとうございます。母体…お母さんのほうも元気なので、安心してください。』

若い看護士は男性二人に気づいたように言うが、若い看護士の顔は片方のほう…金髪碧眼の男性に向いていた。

『それでクオンさん、私すごいファンで後でサインを…。』
『はいはい、仕事に事情を持ち込まないっ。』
『い、いいじゃないですか~。リリーさんの意地悪~!!』
『この際、意地悪で結構。それでは、本当におめでとうございます、ヒズリさん。それじゃあ、後ほど。』

看護士が若い看護士の襟元を掴むと分娩室の中へと戻っていき、

『…はいっ。ありがとうございます!』

クオン・ヒズリは彼女らに頭を下げる。

26歳の彼がそこにいた…。

四年前、

蓮とキョーコはあるドラマに出演した。

蓮は主人公の親友役だったが、黒幕の役でもあって、主人公から見ると裏切り役である。

一方、キョーコはその親友役又黒幕役の過去に関わる役だった。

出番があまりない、名前もシークレットだったキョーコだが、彼女の演技がはある監督の目に止まる。

その監督はアカデミー賞もとったことがある映画監督で、彼女を重要役に使いたいと仕事の依頼を出した。

その仕事も名前はシークレットだったが、次にもらったドラマの仕事で名前を明かし、着々と『京子』の名前を広めていく。

蓮のほうもアカデミー賞を獲得したことがある監督に目がとまり、主人公役を貰いった。

それにより、一気に名前が広まって、彼が22歳になったばかりの頃、ハリウッドで俳優活動することを世間に知らせ、事務所もこっちのLMEに移った。

マネージャーである社も共に…。

そしてキョーコの22歳の誕生日。全世界を驚かすニュースがあった。

そのニュースは蓮とキョーコが行った会見。とにかく驚きの連続。

蓮がクー・ヒズリの息子であること、

これからは本名で俳優活動すること、

蓮とキョーコが交際、結婚…妊娠していたこと、

そしてもう一つ、キョーコもハリウッドで俳優活動すると世の中に伝えた。

これをみた人間は皆、口をポカーンと開けていたとか、開けてないとか…。



「…なんか男の子のほうは蓮に似過ぎだな。赤ん坊のくせに顔が整いすぎてる…俺の息子と大違いだ。」

湯を浴び、きれいになった双子の赤ん坊が小さなベッドの中で眠っている。

「ですよね?私の遺伝子はどこにいったんでしょう…。」

そう言って我が息子を抱っこし、睨み付けるようにジッとみるのは、母親になったキョーコ。

「それは分からないけど…女の子のほうはキョーコちゃん似じゃないかな…?」

社はベッドの中にいる女の子は健やかに眠っており、

(…最初からこの調子じゃあ、どれだけ親バカになるんだか…。)

クオンがそんな我が娘を緩んで緩みまくっていた顔で見ている。

(その子に彼氏ができた日には…。)

そこまで考えて、社は考えるのを止めた 。

考えるのもおぞましいらしい。

「そういえば、お二人目の性別は聞いたんですか?」
「え…?あ、うん。雪兎のときに聞かなかったから、今度は聞こうと唯と話してね?どうやら、また男らしいよ。」

女の子が良かったのにな、と苦笑いする社。本気で思っているわけではないようだ。

「それで名前は決めたの?こいつ、教えてくれないんだよー。」

頬を膨らまして、不満そうに社が愚痴るとキョーコは笑って、

「男の子はトワで、女の子はカレンって名前にしました。」

紙に“永遠”と“可憐”と書く。

「日本名にしたんだ。なおかつ、こっちでも不自然じゃない名前だね。」
「…俺の名前が日本名ですからね。キョーコがそうしたいって言ったんですよ。」
「そうなの?」
「はい。」

確かめるように聞けば、彼女は微笑んで頷き、

「トワは俺の名前と同じ意味を持ちますし、カレンは女の子だから可憐に育ってほしいと願いをこめて。」

クオンが名前の意味について答えた。

「可憐にか…キョーコちゃんの娘だから、きっとそうなるよ。」
「あ、ありがとうございます。」

社に誉められたキョーコは照れくさそうに笑う。

そこにラブミー部員だったときの面影は殆どない。

するとトワが泣き出したため、

「あ、お腹すいたみたいだね。じゃあ、俺はこれで。あと、唯たちを連れてきてもいいかな?雪兎が会いたがってたから。」
「はい。どうぞ、いらっしゃってください。私も唯さんに聞きたいこといっぱいあるので。」
「うん、わかった。伝えとくよ。じゃあな、蓮。また明日。」
「はい、また明日。」

ポンと社は蓮の肩に手を叩いてから、病室を去っていく。

「…クオン。」
「なに?」
「すごいやりにくい…。」

社が居なくなって、いざ最初の母乳を与えようとしたら、クオンが睨み付けるように我が息子をみるので、やりにくいと言ったのだが、

「…息子だと分かっててもヤダな…ソレ、俺のなのに…。」

そんなことを呟く我が夫にキョーコは絶句した。

「子供に嫉妬してどうするの…。」
「分かってるんだけど…うーん…。」
「カレンはいいの?」
「カレンは女の子だろ?しかも俺の娘だし。」
「なのに、トワはイヤなの?」

そう尋ねれば、コクンと頷く、クオンにキョーコは心底、呆れたのだった…。