「…それでどこに行けば、いいかな?」

蓮の手の動きが止まり、キョーコはハッと我に変える。

「え…えっと…ファミ…。」

キョーコは“ファミレス”と言おうとして、一時停止した。

「…?」

そんな彼女に蓮は不思議そうに首を傾げると、

「つ…敦賀さんの好きなとこでいいです…。」

彼女が口にした言葉は、行き場を彼に委ねるものだった。その理由は、

(だ、だって…!こ、こんな高級車を乗ってる人にファミレスでご飯を奢るなんて出来るわけないじゃない…!!し、しかも敦賀蓮よ、敦賀蓮!!ファミレスなんかに入ったら、大騒ぎになるに決まってる…!!!)

自分は高い治療費を払ってしてもらったと言うのに、これでは全くお礼になっていないからだ。

「俺の好きなとこでいいの?」
「は、はい!どこでもどうぞ!!」

どこでもいいと言い切るキョーコに蓮は、

「…男にどこでもいいとか言っちゃダメだよ。」
「え?」

急に雰囲気を変え、キョーコはドキリとすれば、

「兎に角、俺以外にそう言うことを言ったらダメだ。わかった?」
「は、はい…わかりました。」

真顔で説得されて、彼女は頷いておく。

(どうしてダメなんだろう?)

けれども、本人は説得される理由がまったく分かっていなかった。

「…じゃあ、良いレストランを知ってるんだ。そこでいいかな?」
「は、はい。」

聞かれたキョーコは、同意して頷けば、蓮が微笑み返して車を出す。

「…はい、どうぞ。」
「あ、ありがとうございます。」

レストランに着き、車を降りようとしたら、蓮に止められたと思えば、彼が先におり、こちらにくるとドアを開けてくる。

(さすが敦賀さんと言うか…なんと言うか…。)

テレビでの彼は紳士的だと思ったことはあるが、松太郎に釣られて嫌いだった頃は、それはワザとやっているのだと思ったが、そうではなく、素から来るものなんだと、実物に会うと分かったため、キョーコは感心する。

(…敦賀さんって王子様みたい…かっこいいな…。)

つい、そんなことを考えた彼女は、ハッとして今考えた事を消すように首を振った。

(わ、私にはショウちゃんって言う王子様がいるでしょ!ショウちゃんよりかっこいい人なんていないんだから!!)

歩きながら、キョーコはずっと首を振っていたのか、

「最上さん…?どうかした?」

蓮が心配そうに聞いてきて、彼女は我に返る。

「だ、大丈夫です。何でもないです。」
「そう…?それなら良かった。」

ホっとしたような表情を浮かべた彼は、店のドアをあけ、先に彼女を先に中に入れた。

またもや紳士的な行為にキョーコは再び王子様みたいでかっこいいと考えて、首を振る。

悶々としながら、店員に案内された席に二人は座り、メニューを眺める。

キョーコは値段表を見てびっくりした。それなりに手頃な価格だったからだ。

(…美味しそう…。)

それにとても美味しそうなハンバーグがあって、ゴクリとキョーコは唾を飲むが、

「つ、敦賀さんは何をしますか?」

ぎこちなく笑って、蓮に訪ねる。

実は彼女にあまり手持ちがないのだ。手頃な価格でもキョーコにとっては痛い出費のようで、飲み物だけにするつもりだった。

「俺はコーヒーでいいよ。」

しかし、蓮はそう言って苦笑いを浮かべた為、え…?とキョーコは口にすると、

「遠慮してるとかじゃないんだよ?元々そのつもりだったから。お腹もすいてないし…。」

夕飯はマネージャーと食べたからと彼は言う。

「そ、それじゃあ、どうして…。」
「君と話したかったから。」
「え…?」
「君と話したかったんだ。どうして、あんなに高い熱を出してたのに、外を出歩いてたのか…。」
「…!」
「明らかに君の顔は悪かったし、君の家族は誰も気づかなかったの?」
「そ、それは…。」
「それとも1人暮らしかな?それでも、あんなに高い熱を出してたなら、普通は休むよね?余程お金に困ってないと…。」

キョーコは黙り込む。彼の言う通りだからだ。

「話してくれないかな…?君の力になりたいんだ。」
「どうして…。」

彼女の心が蓮の優しさで揺らぎ、

「どうして、そんなに私によくしてくれるんですか…?」

泣きそうになった。ずっと疑問に思っていた。何故ここまでよくしてくれるのかと…。

「…理由はあるよ。最初に言ったよね?君がほっとけないからだよ。」

キョーコの問いに蓮はクスっと困ったように笑ったのだった…。