蓮は思った。やはり、こうなったかと。

何となく分かっていた。彼女の幼なじみはキョーコを利用しているだけだと…。

ただ、他人の蓮に彼女に幼なじみから離れたほうがいいと言えるわけもなく、何気なく離れさせるようにしたのだが、既に遅かった。

こんなにも彼女は傷ついてしまった。キョーコは震えながら涙を流して、幼なじみがキョーコに言った言葉を口にする。

「私、バカみたいですね…?何で、バカみたいについてきたんだろ…。」
「最上さ…。」

見ていられなくて、彼女の肩に触れようと手を伸ばすと、

「なんで…なんで、私のことを誰も愛してくれないの…!?私が欲しかったのはただそれだけなのに…!!」
「最上さん…!!」

気がつけば、キョーコを引き寄せて、その身体を腕の中へと閉じ込めた。

彼女が息を呑むのが耳に届いたが、キョーコを解放するつもりはなく、

「最上さんは悪くないよ。悪いのは君の環境…君の周りだ。君自身は何も悪くない。だから、自分を責めないでほしい。」
「敦賀さん…。」
「お願いだから、自分で自分を傷つけるのは止めてほしい。少なくとも、俺は君がいなくなると悲しいし、苦しい。」
「…!」
「だから…死にたいとか言わないでくれ…。」
「敦賀さ…ん。」

キョーコは溜まらず、声を出して泣き出す。どうして、と何回も言いながら…そんな彼女を蓮は優しくずっと慰めていた。

彼女を慰めるのは“敦賀蓮”としては、これで二回目だ。そう“敦賀蓮”としては、だ。

『あなた、妖精さん…?』

十年前、蓮は実は彼女に出会っている。そして蓮にとって、キョーコと言う存在は、確かに掛け替えのない存在だった。彼女が彼女であるから、こんなにも気にかけている。

再会の仕方はある意味、最悪だった。熱があったとは言え、信号を飛び出し、危うく自分は犯罪者になるところだった訳で、車から降りた時は流石に頭に来ていたが、いきなり倒れた彼女に慌てて駆け寄れば、思い出の女の子と彼女はとても似ていて、高熱だと気づけば周りにいつの間にか出来た人だかりに救急車を呼ぶように指示し、付き添いまでして、しばらくはベッドで横になっていた彼女を見つめていたが、そっと頭をなでると、

『   』

確かに彼女はそう口にして微笑んだのだ。それで彼女が思い出の少女だと確信し、キョーコのことが気になって仕方がなかった。

ただ、どうしてキョーコをそんなに気にするのかは彼女に言った通り、彼自身も分からない。

だからか、蓮は彼女に対する気持ちを未だに名前をつけることが出来なかったのだった…。