「…も、最上さん…?ごめん、嫌…だったよね?」

固まっていた蓮。あれから直ぐに我に返った彼は彼女の部屋になったドアをノックして謝る。

彼が謝るとドアが少しだけ開いて、伺うようにキョーコが蓮を見てきた。

そんな様子の彼女に蓮はホッとして、微笑んだのも束の間、バタンとまたドアが閉められる。

再び固まる蓮。

(な、何で閉めるんだ…?き、嫌われたのか?俺…。)

嫌われたと思って、ショックを彼は受けたが、キョーコの心境と言うと、

(…し、閉めちゃったぁあああ!!で、でも今、敦賀さんのまともに見れないんだもの~!!)

顔を真っ赤にして、悶えていた。

「も、最上…さん…?」
「…!」

蓮の不安そうな声にキョーコは我に返り、

「ほ、本当にごめん。なんて謝ればいいのか…。」
「…!?ち、違います!!敦賀さんは悪くありません!!」
「…じゃあ、どうして、ドアをいきなり閉めたりしたの…?」
「そ、それはその…。」

相手は彼女の言葉を待っているのか、黙りだす。

「つ、敦賀さんが、その…。」
「…俺がなに?」
「っっ~~!!敦賀さんが格好いいからですぅううう!!心臓がバクバクするんです!!何か文句あるんですか!?」

最後のは逆ギレのような台詞ものだった。そう叫んだら、ドアがいきなり開き、ぐいと引き寄せられる。

気づけば、彼の腕の中。

それを頭で理解したキョーコは身体全体が真っ赤になり、ジタバタもがくと、

「ご、ごめんっ。」

蓮は慌てたように放してくれたが、

「何だか、俺、凄く嬉しくて…その、つい…。」

とろけた笑みで蓮は嬉しそうに言うため、更にキョーコは真っ赤になり、

「つ…。」
「つ…?」
「敦賀さんは私を殺すつもりですかぁあああああ!!」

そう言って彼女はトイレがある方向へと逃げた。

ポカーンとして、また固まった蓮を置いて…。

(…し、心臓がいくつあっても足りないわ…!!)

トイレに座ったキョーコは本気でそう思った。

(め、免疫力をつけなきゃ、免疫力…!!)

このままでは本気であの笑みで殺されてしまう。

(だ、大丈夫…見慣れれば、慣れるわ、きっと。)

何度も頷いて、自分に言い聞かせると、トイレから出る。

「あ…あの…敦賀さん…?」

蓮を探すと、彼は未だにキョーコの部屋の前にいた。

「…!」

話しかけると我に返ったような表情を彼はして、

「も、最上さん、俺は君を殺すつもりはないんだけど…。」

慌てたように蓮は言うので、キョーコは可笑しくなって笑うと、

「最上さん…?」
「あ、ごめんなさい。何だか可笑しくて。」

ようやく、ちゃんと蓮の顔を見る。心臓の鼓動は収まりつつあった。

「あ。敦賀さん、お腹好きませんか?良かったら、朝ごはん作らせてください。」

実は空腹だったキョーコは朝ごはんを作らせてほしいと言ったのだが、蓮は急に気まずそうな表情で頭をかき、

「…ごめん、何もないんだ。俺、自炊しないから…あってもミネラルウォーターとか、何とかカロリーとか、何とかゼリーとかで…。」

キョーコから目そらして言う。

「じゃあ、何か買ってきます。おにぎりでいいですか?」
「あ…いや…俺は…。」
「…もしかして朝は食べない派ですか?ダメですよ、敦賀さん。朝は何か食べないと力が出ないんですから。」
「い、いや…でも…。」
「でも、じゃないですよ?おにぎりの他にも買ってきますから、待っててくださいね。」

キョーコは笑顔を浮かべると財布を取りに部屋に向かっていく。

彼女は知りもしなかった。蓮が食欲と言うものがないことに。

そして今後、キョーコはその食欲のなさに悩まされることなど彼女は知る由もない…。