社がニヤリと笑っている頃、キョーコはしゃがんで、猛絶していた。
その理由は数分前のこと。
『最上さん。』
シャワーを浴び終わった蓮が、キッチンにやってきて、
『…!ふ、服をちゃんと着てください、敦賀さんっ。』
キョーコの目に飛び込んできたのはボタンを全開で上半身をさらけ出している蓮で、顔を真っ赤にした彼女は急いで目をそらす。
『ああ…ごめん。』
謝った彼は苦笑いを浮かべ、ボタンを閉めて、キョーコに閉めたよと伝えると、彼女はホッとしたように、こちらを向いてくれたのだが、またキョーコは蓮から目をそらした。
濡れた髪が大変、色っぽいので。
『…なんで目をそらすのかな?』
蓮にそう言われて、ハッとしたキョーコは彼を直視しないように見て、
『す、すみません…大変、目にど…いえ、その…敦賀さんが色っぽくて直視できないといいますか…その…。』
俯いて、もじもじしていたら、あっさりと引き寄せられて彼に抱きしめられる。
身体全体が真っ赤になるキョーコ。シャワーを浴びたばかりのためか、いつもより体温が高く、花の匂いがした。
『かわいいな、最上さんは…。』
『ふぇ!?』
『本当にかわいい。』
とろけるような笑みを浮かべた彼はちゅっとそのままキョーコの額にキスを落とす。
『£%#&#!?』
昨日と同じように彼女はワケのわからない言葉を発する。
『やっぱり可愛いな、最上さんは。』
ぎゅうと抱きしめてくる蓮に、キョーコはいっぱいいっぱいで、
『や…社さんがいらっしゃいました!!』
もう兎に角、この腕から脱出したい彼女は、社の話をもち出せば、そちらにいくだろうと思って言うと、
『…!やっぱり社さんか…参ったな…こんなに早くくるなんて…もう会っちゃっただろうし…それで社さんは?リビングにいるの?』
『は、はい。』
『そっか…じゃあ、悪いけど、彼の分の珈琲もお願いできるかな?まあ、言わなくても、そのつもりだったみたいだけど…。』
シャワーを浴びる前、キョーコが珈琲を入れると蓮に言ったのだが、用意されたカップは3つ。つまり社の分も入れようとしたのだろう。
『あ、あの!まだ出来てないので、敦賀さんは社さんのところに言ってくださいっ。社さんが待ってますよ!』
本当にもう限界だと思ったキョーコは早口で言えば、
『うん。じゃあ、言ってくるよ。』
ちゅっと彼はキスをした。頬に…。
『¢%#&*!?』
そして現在に至る。
昨日からと言うもの、蓮は何かのスイッチが入ったかのようにとろけるような笑みで笑って、
『おはよう、最上さん。』
それはもう神々しく、キョーコは直視ができないくらいには…。
(な…なんなの!?一体なんなの!?)
本当に何だと言うのだろうか。自分は一体なんのスイッチを押したと言うのだろうか…。
キョーコは知らない。知らないうちに日本一抱かれたい男の心を手に入れてしまったことなど…。