「…でさ、どこで出会ったんだよ、あの子。芸能人には見えないし…。」

諦めた蓮がようやく、口から手を引いてくれたので、社は遠慮なくニヤニヤ笑いながら、聞いてくる。

「一週間前くらいに俺、世間に騒がれたじゃないですか。」
「うん?ああ…騒がれたな、確かに。」

何を言い出すのかと思えばと社は思ったが、

「…あの子ですよ。俺に引かれそうになった子は。」

蓮の言葉を聞いて数秒後、

「…ええ!?マジか!?」

驚愕の声をあげる。それもそうだろう。あの出来事は、世間を騒がしたのだから…。

「どうりで庇うわけだよな…。」

下手したら、犯罪者になるところだった蓮に対して、ファンの反応は驚きと安堵だったが、道路を飛び出した少女についてはファンの怒りを買ってしまい、記者の中に正体を探ろうとする者まで現れたが、蓮が記者会見まで行い、少女が道路に飛びした理由について説明し、世間を騒がしたことを詫びた。

その蓮の姿に好感を持たれて、結果的にはプラスになり、世間はこの件について忘れつつある。

「…うん?そうなるとなんだ?一目惚れとかそんなのか?」

あまりにもキョーコと出会ってから日にちが経っていない。

恋に時間は関係ないと言うが、周りが美人だらけな蓮だ。一目惚れの確率は低いだろう。

ましてや惚れっぽい性格でもない。

「えっと…それは…。」
「…なんで目を逸らすかな蓮くん?」

ニコニコと笑う社だが、蓮にはさぁ、吐けと言っているように見える。

「俺に隠し事はしない約束だよね?蓮くん。」
「う゛…その…会ったことがあるんですよ…実は…子供のころに…。」
「ってことは…?つまり、お前が…。」
「いえ…あの子は俺のことを妖精だと思ってるはずです。」
「…よ、妖精…?妖精ってあれだよな?ディ○○ーの作品に出てくるアレ…。」
「そうです…あれです。しかも妖精の王子様だと思われてるんです。って笑わないでくださいよ!」

そこまで聞いた社は思わず、吹き出して笑い出したため、蓮は恥ずかしいのか、耳を赤くすると

「ご、ごめん…!で、でもさ!妖精の王子…ぶふふ!似合いすぎるぞ、お前!!」

かなり可笑しいのか、社は涙を流しながら笑う。

「悪かったですね!」
「お、怒るなよ。似合う男なんてそうそういないぞ?」
「な、何が嬉しくて、妖精のふりなんか…!」
「…つまり、事情があって撤回できなかったと?」
「…!」
「図星か。」
「っ…言えないじゃないですか…あんなキラキラした目で見てくる彼女に妖精じゃないなんて…。」
「キラキラって…。」
「あの子からすれば、サンタと同じくらい妖精はいるって思ってるんです。いや、それ以上かも…。」
「あのさ…あの子はそちら側の子なのか…?」
「ある意味そちら側です…それに…。」
「なんだよ…?」
「あ…いえ…これ以上は完全に彼女のプライバシーに関わるので…その…。」
「わかった…とにかく、あの子には深いわけがあるってことだな?」
「はい…だから、あまり過去については聞かないであげてくれると…。」
「…うん、わかった。そうするよ。」

社は頷くと、話を切り替えるように、

「さて。じゃあ、お前はまず、その頭を乾かしてこい。お前が風邪をひくと周りが困るからな。」

彼にそう言い、蓮は忘れていたのか、自分の髪に触って苦笑いを浮かべ、

「じゃあ、そうします。」

蓮はドライヤーがあるバスルームへと戻っていき、社はそれを微笑みながら見送ったのだった…。