「…何か言いたいことはないか?蓮よ。」
蓮が所属しているLME事務所の最上階。そこは社長室であり、高級感溢れる椅子に男性が座っている。
ただ、この男性…格好が普通ではない。金ピカの昔の貴族のような格好をしているのだ。
彼の名はローリィ宝田“勘”だけでここまで事務所を育てた人間である。
「いえ、特に…。」
そんな彼の前に蓮は立っており、彼から目を逸らす。
「ほう…?とぼける気か…いいだろう。」
ローリィがパチンと指を鳴らすと、執事が現れ、カーテンが閉められて、ぱっと壁に映像が映し出された。
「こ、これは…。」
映像には蓮と社、そして重箱に入ったお弁当。
『うわ、すげー!キョーコちゃん料理上手だと思ったけど、もうコレはプロの領域だよ!』
まるで高級料亭が作ったかのようなお弁当に映像の社が興奮気味に言う。彼の言葉通り、これはキョーコが蓮と社の為に作った物で、映像には二人が美味しそうに食べるところまで撮られている。
蓮は嫌な汗を流し始めた。映像の中の社はペラペラとキョーコについて話すので。
まさか撮られているとは思ってもいなかった。
しかも映像は変わり、キョーコが出てきて、
『いらっしゃいませ。何をご注文いたしますか?』
にっこりと営業スマイルする彼女。完全に隠し撮りだろう。カメラの角度が可笑しい。
芸能人の蓮はまだ良いが、キョーコは一般人。普通に犯罪である。
「どうだ?これを見ても、しらを切る気か?」
「…切りたくても、もう切れませんよ…これじゃ…。」
「驚いたか?」
「当たり前です…まさか撮られてるなんて…しかも最上さんまで…。」
蓮がそう言うと、ローリィはふふんと笑い、
「俺を舐めるな、蓮よ!俺が気づかないとも思ったのか!!俺を隠し事をするなど10年早いのだ!!」
あははと高笑いまでし始めた。
「…それで社長は何が言いたいんですか?」
「それはだな?」
「やっぱり良いです。」
「そうか、そんなに聞きたいか!」
そうだろう、そうだろうとローリィは高笑い笑いしながら、蓮の発言を無視するため、
(…もう勝手にしてくれ…。)
はぁと呆れたように蓮はため息し、
「聞いた話ではお前、京都にロケにいくそうじゃないか。」
「ええ。」
「その間、一緒に住んでる彼女はどうする気だ?」
「それは置いていくしかな…。」
ハッとして蓮はローリィを見れば、彼はニヤリと笑い、
「どうして知ってるんですか!?」
「だから俺を舐めるな、蓮よ。」
「…俺にプライバシーはないんですか…。」
「俺に手にかかれば、そんなのは関係ない。」
「…本気で貴方だけは敵に回したくないです。」
「回したいのか?」
「…いいえ。」
「そうか。で、だ。お前が京都に行っている間、彼女も連れていけばいい。」
「…は?」
「監督には俺から話してあるから大丈夫だ。」
「い、いや!なにが大丈夫なんですか!?そもそも監督に何を言って…!」
「うん?俺はただ社君は風邪だから変わりのマネージャーをつけてあるって言っただけだが?」
さらりと、とんでも無いことを言うローリィに蓮はめまいを覚えた。
社は風邪など引いてないし、別れる際も元気そうだった。風邪など、まったくのデタラメ。
(は…!ま、まさか…!!)
そういえば、社は最近ロケの話ばかりしていた為、ヤな予感した蓮は、
「や、社さんはこのことを…?」
「ああ、知ってる。」
ローリィに聞いてみれば、予感は的中しており、どうりで京都のロケのことをああも言うわけだと、蓮は頭を抱える。
きっと社のことだ。
(蓮はキョーコちゃんと一緒に居られて、俺も休めて一石二鳥!)
と、でも思っているのだろう。
容易く想像できた蓮は今度は頭痛も覚えたのだった…。