瑠璃子は今現在、危機に立たされて、真っ青になっていた。
『同じ素人なら、あの子でもいいんじゃない?』
彼女の行動は、スタッフらをさらに不快にさせ、誰もかもがキョーコの味方につく発言を瑠璃子は聞いたからである。
頼みになる己のマネージャーは何故か、どこにも見あたらず、連絡が付かない。つまり味方なんていない。
(ど…どうしよう!!)
売れてたからと言うもの、思い通りにならないことなんてなかった。
それなのに、この現場は違うとあって、そんなことばかり考える。
ちなみに瑠璃子のマネージャーが連絡が付かないのは、その彼女も宝田一味だから。
一方、キョーコは着物の着付けやメイクなどを施されていた。
「それにしても、このチャンスをものにしたら、これは本当にシンデレラよね。」
「ホント、ホント。」
キョーコにメイクを施しながら、メイクさん達が言う。
「し、シンデレラ…?」
「だってそうでしょう?瑠璃子ちゃんから役を奪うだもの。」
「ねー?一躍有名人よ。」
シンデレラという言葉にキョーコは胸がときめいた。小さいときからおとぎ話が大好きだったから。
(…罪悪感で胸がいたい…。)
けれど、それは一瞬であり、すぐに罪悪感が生まれる。それもそうだ。本気で役を奪うつもりなどないからだ。
「それにしてもキョーコちゃん、肌が綺麗ね。」
「そ、そうですか?」
「ええ。きっと化粧映えするわ。」
にこっとメイクさんは笑う。彼女は言葉はその通りになった。予想以上に。
(う…嘘でしょ…!?)
瑠璃子が言葉を失う程度には。
「最上…さん…?」
蓮は目を丸くして瞬きを何度もする。よほどビックリしているようだ。
そこには、別人だと思うくらいに美少女になったキョーコがいた。姿勢が良いため、赤い着物が映えて見える。
スタッフたちにも、本当にキョーコなのかとメイクさんに聞いてしまうくらいの驚き。
「ふ、ふん…!腕のいいメイクにかかれば、大抵誰でも良くなるわよ!良かったわね、元が並みだから化粧映えして!」
瑠璃子は嫌みを言ったつもりだった。
「そう、そう!そうなの!まるでシンデレラになった気分なの!メイクさんって魔法使いね!!」
それなのに同意して喜ぶ彼女に、瑠璃子は歯ぎりする。
「ああ…!本当に夢みたいなの…!メイクをこんな形で施して貰えるなんて…!!ああ、断言してもいいわ!!私は今、16年間で最も幸せな瞬間を迎えているー!!」
あげくの果てに泣いて喜ぶキョーコに、スタッフたちは一体今までどんな人生をと思い、蓮は視線を落とした。
(…彼女にとっての幸せって何なんだろうか…。)
きっと、それはとても些細なことなのだろう。愛する家族がいて、信頼する友達がいて…。
(…俺に出来ることは、きっと…。)
きっと彼女を優しさで包むことくらいだろう。そこにキョーコが望んでいた愛が含まれているけれども。
「だ、誰があんた何かに負けるものですか!!この仕事は私のよ!!」
蓮が考え込んでいたら、瑠璃子がそう発言した為、彼は視線を戻せば、隣に立ってる新開がニヤリと笑った。
新開による計画は順調に進みつつある。
そして、キョーコは瑠璃子と演技することになり、先ほど登場するだけで何回も撮り直しになっていたシーンもキョーコもやることになったのだが、
(…このシーンは私にとって、難しいことなんてない…学んだことをやればいいだけ。)
この役は旧家のお嬢様だ。綺麗な姿勢で、いつだって流れるような歩行できなければいけない、そんな役。
キョーコにとっては難しいことはなかった。そう、それが必要だったから。
『そうや。その姿勢が基本姿勢やで、キョーコちゃん。』
仕事でほぼ家にいない彼女の母はキョーコを尚の家に預けていた。彼の家は伝統のある旅館で、尚の両親に嫌われたくなかった彼女は仲居の仕事をやりだした。正しい姿勢と着物を崩さず美しく歩行する仕方を学んだ。だから、この登場するシーンでキョーコが苦戦することなどあるはずがない。
「…わたくしがどうかなさって?お母様。」
「…!!」
「あ…っ。蝶子…!」
「あら…緑お姉様…お久しぶりです。」
そして、仲居にとって重要な綺麗なお辞儀を披露する。
「っ…。」
完璧なキョーコに瑠璃子は悔しさで身体を震わせ、
「…上等…。」
隣で座っていた新開の言葉に衝撃を受けたのだった…。