とある企画ものを書いていて、こちらの更新が遅れました(^_^;)企画については後ほど。

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太陽が照らす、旅館の庭。

シャカシャカと音を立て、瑠璃子がお茶を立てており、おお~!とスタッフが驚いていた。結構さまになっているからだ。

(…実は子供のころ、無理やり習わされたのよね…すぐ止めちゃったけど…。)

スタッフたちは初めてだと思っているようだが、違うらしい。

「そういやぁ、キョーコちゃんは?キョーコちゃんもレクチャーしてもらうはずだろ?」
「彼女ならあそこにいるよ。敦賀くんと一緒に。」

男性スタッフの一人が、数メートル離れた先を指差す。確かにそこには蓮とキョーコがいて、離れているため、内容はこちらには聞こえない。

それを見た瑠璃子が気にくわなそうに歯ぎりし、キョーコを睨みつける。

「…睨んでるよ、彼女。」

そんな視線に気づいていた蓮がキョーコに言うが、

「それが狙いですからね…敦賀さんも人が悪いです。」
「あはは。」

彼は苦笑いを浮かべるしかない。それもそうだろう。

「敦賀さんが自分と共演したいって聞いたから瑠璃子ちゃん、この仕事受けたんですよね?乙女心を利用するなんて、敦賀さんも監督も、あの社長さんも悪い人です。」

乙女心を理由されたことに関してはキョーコは瑠璃子に同情する。

「でも、君はそんな悪い俺たちに手を貸してくれるんだよね?」

しかし、そこで彼女が黙りこみ、

「どうかした?」
「いえ…監督から聞いたんですけど、瑠璃子ちゃんは元々、あんな性格じゃなかったって聞いたんですけど…。」
「…そうらしいね。元々は一生懸命に仕事をしてたらしいから…。」

それなのに、こうなってしまったのは本人だけのせいではないような気がした。

「周りが彼女を甘やかし過ぎたたから、ああなったと思うよ。」
「…じゃあ、元に戻さないとダメですね。全力で。」
「そうだね、全力で。」

くすっと蓮はにっこり笑い、キョーコも微笑む。くすくす、うふふと言う笑い声が怖いと感じるのはきっと気のせいではないだろう。

「あ、そうだ。」
「はい?」
「…綺麗だよ、最上さん。」

不意打ちだった。キョーコは顔を真っ赤にする。

「あ、ありがとうございます…。」
「着物もよく似合ってるよ。」
「さ、さようでございますか…。」

とろけるような笑みで蓮は誉めてくる。恥ずかしさで彼女はもじもじした。

(し、視線を感じる…っ。)

多分、瑠璃子が睨んでいるのだろう、視線が痛い。いや、それが目的ではあるのだから良いのだが、問題は蓮に悪意がないことであり、

(お願いだから、その笑みは止めてください~~!!)

己の心臓にも悪影響である。

「敦賀くん、キョーコちゃん!監督がテスト始めるって!!」

逃げたい気持ちでいたら、スタッフが駆け寄ってきたため、キョーコはホッとしたが、テストをやると聞き、真顔になった。

「…大丈夫?次、お茶があるシーンだけど…。」

歩きながら、蓮がボソッと尋ねるが、キョーコはあえて答えなかった。騙すならまず味方から、ということわざがあるように…。

「ストップー!瑠璃、いつまでも蓮に見とれてたらダメだろー!」

テストは先に瑠璃子がやっていたが、彼女は蓮に見とれてセリフを忘れたようで、

「まぁ、いい。キョーコちゃん、すたんばって。」
「…!はい…!」

キョーコにスタンバイするように言い、評価を聞きに近づいてきた瑠璃子に対して、

「茶のまずまずっと。」

辛口評価するため、瑠璃子はムカっとしながら、

「監督、今で本当に、私の演技のよさ分かってもらえたんですか?最後までやってないんですけど…。」
「大丈夫、大丈夫。瑠璃が本気でやってないのはわかったから。」
「…!?わ、私本気でやりました!!」
「じゃあ、今度は必死でやんないとな。蓮に見とれてる時点で。」
「あ、あれは…!!」
「瑠璃、俺が効きたいのは言い訳じゃない。」
「…!?」
「ま。今の瑠璃に言っても無駄か。」

新開はそう言い残して、キョーコのテストの準備が出来てるかと近くのスタッフに聞きにいく。

(一体、どういう意味…?)

瑠璃子は立ち尽くしていた。意味が分からない。新開の言葉の意味が。

そうしてるうちにテストは始めるらしく、先ほど瑠璃子がいた場所にキョーコが正座で座っている。

(ふ…ふんっ。失敗するに決まってるわ!だって、あの子レクチャー受けてないだもの!!)

茶道は習わなければ、出来るものではない。分かっていて、瑠璃子は鼻をならし、新開が残した言葉を角に追いやってしまった。

しかし、それは検討違いだった。シャカシャカとキョーコが茶を立てる。

「う、うまい…素人から見ても…。」

彼女の茶道の腕はどうみても、プロのそれ。

(な…なによ、これ…!!ずるいわ!!まるで手の内を見せないように…!!)

わざとレクチャーを受けなかったことに気づいた瑠璃子はハッとした。

慌ててに新開を見れば、口元がニヤリと笑っている。

(わ、私…!)

ぎゅっと瑠璃子は手を握る。明らかに勝敗は見えていた。

(い、いやよ…!あの子に負けたくない…!だってこれは私の…私の仕事なのに!!)

悔しかった。すごく悔しかった。このまま終わるのは嫌だと思った。そこで瑠璃子は急に角に追いやった新開の言葉を思い出す。

(あ…。)

聞きたいのは言い訳じゃないと彼は言った。その意味は…。

(そうよ…監督が言いたいのはそう言うことだったのよ…。)

ぶち当たってこい、新開が言いたいことは恐らくそうだ。

(私…忘れてた…仕事を一生懸命にやる気持ち…歌が大好きだったから…。)

売れないころは、熱があっても、一生懸命に仕事をやっていた。自分で納得できないとプロデューサーに必死に頭を下げて、ぶち当たるように…。

だから気持ちの意味でも、キョーコにかなうはずがない。彼女は一生懸命にやっているのだから。

(っ…!)

決めた。どうせ、キョーコに負けているのだ。なら、納得して終わりたい。それが、瑠璃子の瞳に熱意が戻った瞬間だった…。