奏江は目を点にした。その理由は目の前で話す、キョーコと蓮のせいだ。

「どうして、ここに敦賀さんが…?」
「社さんが事務所にようがあってね?時間があったから、最上さんに会いにきたんだ。」

天下と言っても良い敦賀蓮と一般人のキョーコが親しそうに話してるのだ。目を点にするなと言うのが無理な話である。

「…君が琴南さん?初めまして、敦賀蓮です。」

そんな奏江に気づいたのか、蓮が自分に話しかけ、

「最上さんから話は聞いてるよ。大変だね?社長に遊ばれて…。」

発言的には同情してくれているように思えるが、奏江はそう思えなかった。

にっこりと笑う彼にトゲを感じたせいである。

しかし気のせいだと自分に言い聞かせ、

「い、いえ…そんなことは…。」

悟られないように愛想笑いをしたが、キョーコは不満そうに頬を膨らませると、

「モー子さん、私にいつも言ってることが違う~!しかも私には笑ってくれないくせに~!」
「う、うるさいわね!なんで、あんたに愛想を浮かべなきゃいけないのよ!!」

そう言ってから、あっと奏江は己が失言したことに気づき、慌てて蓮を見れば、

「…仲良いんだね?」
「はい、親友ですから!」

キョーコの語尾にハートが付きそうな発言に、さらににっこりと笑顔を深くした。

「ふーん…?ごめん、そろそろ俺、行かないと。またね、最上さん。」
「あ、はい。お仕事、頑張ってくださいねっ。」
「うん。」

にっこり笑顔から、柔らかい笑みになったが、キョーコから奏江に視線が移ると、

「琴南さんもまたね?」
「は、はい。」

またにっこりと笑顔で笑い、奏江はぺこりと頭を下げる。

ただ、またと言うのはどういうことであろうか。もう、会うことは恐らくないだろうに…。

蓮が二人が去っていき、姿が見えなくなってから奏江はキョーコに怒鳴った。

「あんた、敦賀さんに何話したわけ!?だいたい予想はつくけど!!」
「嬉しい!モー子さん、私のことを分かってくれてるのね!!」
「喜ぶな!!」
「ええ~!?」
「だいたい、頼んでもいないのに、あんたが好き勝手に話すんじゃないのよ!!」
「だって、モー子さんに私のこと知ってほしいんだもん~!!」
「私はしりたくもないわよ!!」
「ええ~!?そんな~!!酷い~!!」
「知らないわよ!!」

ふんっと奏江は鼻をならして歩きだし、慌てて追いかけるキョーコ。

そんな掛け合いをみた社員たちは思うのだ。

(痴話喧嘩してるみたいだよな~。)

と…実際、そんな関係の二人に嫉妬してる人間が1人いる。

「あ、蓮!キョーコちゃんに会えたか?」
「ええ、会えましたよ。よからぬ、恋敵がいましたが。」
「…は?」
「同性と言うだけで、あんなに好感もたれるなんて卑怯じゃありません?」
「お、お前はい、一体何の話を…。」
「さて、行きましょうか、社さん。」

誰も知りもしない。

最近のキョーコの話題が“モー子さんがモー子さんでモー子さんがモー子さんでした”であり、話に出てくる奏江に嫉妬していることなど…。

敦賀蓮が大変、嫉妬深い人間だったことなど誰も知らないのだった…。