それはキョーコがチャーハンを作ってる頃…。

社の携帯にある人物から電話がかかってきた。

「…もしもし、社ですが。」

何故かゴム質の手袋を社は装着してから、携帯に触れて電話にでる。

こうしないと携帯がまずいことになるのだ。

なんと彼は手袋をせずに直接そのまま機械に触れると約10秒で破壊してしまうと言う驚異的な体質なのである。

そんな社の趣味は将棋と囲碁らしい。彼ごとく、奴らはいくら触っても壊れないから、だとか。

「え…ええ!?ちょ!まっ…!!」

電話に出た社だが、いきなり驚けば、

「…は、はいぃ!!おはようございます!!社長!!」

本人がそんなとこにいるわけでもないなのに、背筋を伸ばす。

「…え?あ、はい。」

ローリィに何か言われたのか、社は振り向き、スタンバイ中の蓮に近づいて、

「社さん、どうかしたんですか?」

足音で彼に気づいた蓮も振り向く。

「お前に電話だ。」
「え…?電話…?」

携帯を渡された蓮は首を傾げたが、携帯を受け取って耳に当てると、ローリィの声を聞こえてきて、彼の表情が真顔になる。

「…何かあったんですか?」

ローリィが蓮に電話をかける時は大切な話や用事があるときだけだ。

しかも社の携帯に電話をかけたと言うことは、時間があまりないと言うことかもしれない。

〈実は彼女にマリアの件を頼んだんだ。〉
「マリアちゃん、ですか?」
〈ああ…お前は知ってると思うが、マリアは大人の言葉を聞き入れないだろ?だから、瑠璃を何とかした最上くんに頼んだんだが…。〉

そこまで聞いた蓮は目を見開いた。そして、彼はすぐに怒りを覚え、

「あなたは何てことをしてくれたんですか…!?」

怒鳴りつけた。一瞬にして、周りの共演者やスタッフたちがこちらに視線を向ける。

「あの子は…!最上さんは…!!」

チッと蓮は舌打ちした。

その依頼について何も言ってこなかったキョーコにも怒りを覚える。

〈…やっぱり、最上くんは家庭に何か問題があるのか?〉
「それについてはここでは話せません。彼女から直接きいてください。それよりも最上さんは?」
〈とりあえず、事務所に送り届けたが…どうやら直ぐに帰ったらしい。〉
「…分かりました。彼女は俺が何とかします。」
〈分かった、すまない。最上くんには後で謝罪しよう。〉
「してもらわないと困ります。」

きっぱりと蓮は言う。知らなかったとはいえ、傷つけたのだ。謝らなければ、いくらローリィでも蓮は許さない。

そこで蓮は電話をきり、戸惑った顔をしている社に携帯を返す。

(最上さんが心配だ…早く帰らないと…。)

キョーコが心配で仕方ない蓮は早く帰宅するため、社と同じように戸惑った表情をしている共演者やスタッフたちに、すみませんと謝った後、回ってきた出番にセットの中へと足を踏み入れた。

その後ミスすることなく演技をし、結果的に共演者たちも引っ張られるように演技をして、かなり早めに撮影を終わらせると、直ぐに、社が何があったのかと聞いてきたため、蓮は困って苦笑いを浮かべる。

ローリィに話せないことは勿論、彼に話せない為に。

「ちょっと、わけありで…。」
「ふーん…?まぁいいや。多分、お前の判断で話して良い内容じゃないのは分かったから。」
「すみません…。」
「いいよ、気にしなくたって。俺はタクシーで帰るから。俺は真っすぐ帰れよ?」

ポンと社は蓮の肩を叩いて笑う。そんな彼の優しさを蓮はありがたく感じたのだった…。