「…な、なんでアンタがここにいるのよ!!」
奏江は驚愕していた。目の前には笑顔で笑っているキョーコ。
「モー子さんがデビューする、その一歩が見たくて。」
ここは奏江は応募したCMオーディションの会場があるビルであり、一般的のキョーコがいるのは可笑しい場所だ。
「モー子さんの輝かしい第一歩を見られるなんて、私なんて幸せものなの!?」
目をキラキラさせ、天井を見上げるキョーコ。
つまり、彼女はそれが見たい為にこのCMオーディションに応募したらしい。
しかし、奏江は俳優セクションの主任以外それを話していないのに、どこで話を聞いたんだろうと奏江は思ったが、ハッと気づく。
要はそこが情報源でそこまでするキョーコは、
「す…ストーカー…!!」
正しくキソレなので、かるく恐怖で身体が震えた奏江は己を抱きしめる。
「ストーカーなんて、ひどーい!私、モー子さんのファン1号なのに!」
「そんなファンいらないわよ!!」
「またまたモー子さんたら、もう!」
パシパシと彼女の肩を叩いてお茶目にキョーコは笑う。
「あ~~!!も~~~~!!」
そして頭をクシャクシャにして叫ぶ奏江は、完全にキョーコに振り回されている。
「…クスっ。ずいぶん変なファンがいるのね?」
そこに笑い声が聞こえてきて、奏江はハッと目を見開き、固まった。
「久しぶりね、琴南さん。」
恐る恐ると言う感じに声の主に奏江は振り向き、
「あ…あなた…。」
そこには奏江と変わらない年頃の少女がおり、
「会いたかったわ、琴南さん。」
「…っ。私は一生、会いたくなかったわ。」
「あら、そう。」
何が可笑しいのか、クスクスと笑う。
「も、モー子さん、知り合い…?」
ただならぬ雰囲気を感じたらしいキョーコは奏江に恐る恐る尋ねるが、彼女は黙って答えようとしない。
「あら?いいたくないのかしら?そうよね、一生で唯一のファンに嫌われたくなんてないものね?」
少女の発言に奏江はぴくっと反応を示したが、それはほんの一瞬であり、
「…一生?」
キョーコは奏江がバカにされたと感じて睨む。
「だって、今まで端役しかやったことのない琴南さんが…ふふ。そんな彼女が、デビューできるはずなんてないじゃない。ましてや、この私がこのオーディションに受験するんだから。」
クスとまた笑う少女。その言い方はまるで自分が受かるに決まっている、だから貴女が受かることは絶対にないとバカにした言い方だった。
「だ・か・ら、帰ってもいいわよ?どうせ、私がこのCMの仕事を取るんだから。知ってるでしょ?私の実力。」
ニヤリと笑い、少女は腰に手をあてて自信満々に言う。
「…そうね…。」
その発言に今まで黙っていた奏江が、
「貴女のその実力とやらは、今も人の見えない所で絶大みたいね…。」
じろりと少女を睨み、
「今回もその“実力”に頼るのかしら…?」
意味ありげな言葉を口ににするが、
「さぁ、なんのことかしらね?」
クスクスと少女はわざとらしく惚けるため、奏江は無視するように背を向けた。
「も、モー子さん!」
慌てて追いかけるキョーコは、少女に一瞬に振り返ると、彼女はニヤリと笑っていて、
「…!」
目を見開いたのだった…。