「良い?モー子さん!!」

二次審査当日。私服のキョーコと、ラブリーユニフォームを着た奏江はしゃがみこんで座っており、

「今日からモー子さんは狙われるだけの草食動物じゃなくなるの!そう!言うなれば豹!!誰よりも早い足と鋭い牙で狙った獲物は必ずしとめる!!弱肉強食社会とも言われる、この芸能界と言う名の大草原を駆けるモー子さんはしなやかで美しい豹になるのよ!!」
「…それはわかったけど…あんたはどうするわけ?」
「へ?」
「だってアンタ、そもそも“ここ”には私がオーディション受ける姿が見たくてきたのよね?でも、下手に受かったらアンタどうするのよ?」

奏江にそう言われて、キョーコは目をパチリとさせ、

「もー、モー子さんたら!私なんかが受かるわけないじゃない!才能なんてないんだから!!」

あははと笑い飛ばす彼女に、

(…少なくとも人形師の才能はあると思うけど…。)

以前、マリアを釣るために見せてもらった人形の出来に奏江はキョーコは才能がないとは思えなかった。

「まぁ、それは置いといて!モー子さん、私の助太刀するから、大船に乗ったつもりでいてね!」

笑顔で精一杯援護するからと張り切るキョーコ。そんな彼女に奏江はクスと笑い、

「…頼りにしてるわ。」

うん!と元気よく頷くキョーコを見て思う。

(…なんでだろう?負ける気がしないのは…もしかして、一人じゃないから…?)

きっと彼女がいなければ、立ち向かおうとしなかった。きっと、彼女がいなければ、立ち向かおうとしても恐怖で震えたかもしれない。

「でね?やっぱり、狙う獲物には、まず最初に牙を向くべきだと思うの。」

ニコッとキョーコが笑った所で、

「な…!?なんなの!?貴女のその格好は!!し、信じらんない!!なんて恥ずかしい格好してるの!?まさか、その格好でここまで来たんじゃないでしょうね!?」

その“獲物”が現れたので、2人はゆっくりと立ち上がり“獲物”は奏江の格好に身を震わせる。

「絵梨花さま、直視してはいけません!しばらく夢にみて、うなされます!!」

執事の一人が止めるが、もう遅い。なんと言っても魔のユニフォーム。一度、目にしたら忘れられないのだから。

「あぁ…!もしかして私に勝てるわけないって分かってヤケクソになったの?なによ、ちゃんと素直に負けを認められるんじゃない。だったら、もっと早くそうやって身の程をわきまえて大人しく降伏してほしかったわ。それを貴女が私の目を盗んではしつこく演劇に関わろとするからっ。私はねぇ、三年で転校するはずだった小学校に六年居続けるはめになったし、貴女に合わせて行きたくもない中学にも通ったのよ!!本来なら最高級の経歴をもつはずだったのに!!」

勝手にベラベラと話す絵梨花だが、どう聞いても、奏江は何一つ悪くない。

小学校に六年に居続けたのも、行きたくもない中学に通ったのも、彼女が自分で決めたことで、それを奏江に押してるだけ。

「ホッント、貴女のせいで人生狂わせられた、わ…。」

しかし、それで今日で終わる。そこまで黙って聞いていた奏江とキョーコが絵梨花に振り返り、刃向かうように睨んだからだ。

睨まれて絵梨花は目を見開く。

「な、なによっ。その目は…!」

今まで闘争心を微塵も見せず、シカトまでしていた奏江が刃向かってきた為、絵梨花にとっては予想だったのだろう。

いつもの余裕がなくなり、こちらに睨み返してくる。

「…そう。私が貴女の人生を狂わせたの…ごめんなさい?でも、安心して。それも今日で終わりよ。貴女を私から解放してあげるわ…。」

こうして、奏江と絵梨花の最終ラウンドの鐘が鳴らされただった…。