その帰り道、てくてく歩きながら、

「…なんだったの?」
「え?」
「監督。」

黒埼と何の話をしていたのかと奏江はキョーコに聞くと、彼女は理解したのか、ああと言って、

「別に大したことじゃないよ?ただオーディションの第二課題で使ってキュララのことでね?私が缶でモー子さんにはペットボトルを渡したのはわざとだな?って確認されたの。それとペットボトルが缶ほど中身が飛び出ないのも計算してたのかって。どうしてそんなこと聞くのかな?」

不思議そうにキョーコは首を傾げるが、奏江は目を見開く。

(そうだ…そうよ。もしも私とこの子の持ってたキュララが逆だったら、自然とあんな流れにはならなかったはず…!!計算してたの…?全部、あんな一瞬で…!!ゆ、油断ならないわ…!この子…!!)

あまりの頭のキレの良さに奏江はキョーコに警戒心をもち、

「モー子さんだって炭酸のペットボトルのは、ああなるって知ってたよね?」

首を傾げていたキョーコは奏江に顔を向けると彼女に睨まれていたので、

「あ、あれ…?も、もしかして知らなかった…?」
「っ…知らないに決まってるじゃない。私は美容のために炭酸飲料なんて飲まないんだからっ。」
「そ、そうだったんだ…。」

今になって、奏江がなぜあんなにうろたえたのか分かった。

「わ、私もね?本当は炭酸が苦手で自分からは進んで手を出さないから、たまに炭酸を飲むことになった時、思わず振っちゃって失敗してたの。」
「…なんで苦手なのに“たまに飲む”ことになるのよ?飲まなきゃ良いじゃない。」

奏江の言うことはもっともなのだが、

「それがねー。仕事の後に女将さんがくれるから飲まなないわけにはいかなくて。」

どうやら、お世話になっているショウの母が炭酸飲料をくれるらしく、健気なキョーコは飲まざる負えないらしい。

「おかみさん?」

しかし、彼女の過去を知らない奏江は聞き返すように口にするとキョーコはハッとして、

「え、えっと…っ。その…っ。」
「…?どうしたのよ?」
「そ、それについては、あ…あのっ。」
「…もしかして、ここで話せない内容なわけ?」

こくこくと頷き、奏江はふーんと、

「じゃあ、あとで聞くわ。」

そう言ってくれた為、キョーコはホッとした。

「ところでモー子さん。」
「なによ。」
「モー子さんはこうやって友達と街に出てくることってよくあるの?」
「え?」
「私は初めてよ。女の子の友達と一緒に街を歩くなんて!」
「…どうして?あんたの性格なら友達の1人くらい居るでしょ?」

孤独を好む自分はまだしも、キョーコは人当たりがよく、友達が1人はいると奏江は思っていたのだが、

「嫌われてたの。ん?いや、地域中かも?」

あっさりと告白するキョーコ。しかも地域中までときた。

(…この子、私と似てるかも…。)

地域中とは言わないが、絵梨花のせいで陰口をよく叩かれていた奏江はキョーコに自分を重ねる。

「…あ!モー子さん、あれ見てー!!」

するとだ。いきなり手首を取られて、キョーコに引っ張られる奏江。

「ねぇねぇ、この服かわいいでしょ?絶対、モー子さんにぴったりよ。」

引っ張られて連れてこられたのは“ジャンヌダルク”と言うとファッションブランドの店であり、ウィンドウにはマネキンがフリルを使った可愛らしいワンピースを着せられており、キョーコはこれが似合うと言うため、

「…そうかしら…趣味じゃないわ…。」

奏江の好みとしては絶対に手を出したりしないデザインであり、来ても似合わないだろう。

「あ~ん!!そこは“キョーコのほうが似合うって~”って言ってくれなきゃ嫌ぁ~~!!」
「はぁ!?なによ、それ!!」
「え?何って…それが女友達同士の会話じゃないの?」
「あんた、そんなのどこで聞いたのよ!言っとくけど、そんな寒々しい会話するような仲の女は上っ面だけの付き合いなんだから!!」
「ええ~!?ウソ~~!?」
「本当よ!!女なんて寄り集まれば喜んで他人の陰口を言うんだから!!だから、私は他人と戯れるなんてまっぴらごめんなのよ…!!」

眉間に皺をよせ、そう言い放つ奏江にキョーコは悲しそうな顔をして、

「モー子さん、友達に陰口ばっかり言われてるの?」

そんな友達は捨てちゃったほうがいいよ?と提案すれば、

「友達じゃないわ!!あんな連中は私にとっちゃハエや蚊と一緒よ!!」

カッと怒って奏江は反論したが、反論してからハっと我に返る彼女。

「…なんだ。じゃあ、モー子さんもずっと特別に仲の良い友達いないんだ。」
「な、なによ!悪い…!?」
「ううん、良かった!」
「なんですって!?」
「だって、そしたら私がモー子さんの親友第一号ってことでしょ?」

えへへと嬉しそうなに笑うキョーコに奏江は目を見開いた瞬間、

「あ!モー子さん、あれあれーー!!こっち来てーー!!」

再びキョーコに手首を掴まれ、奏江は連れていかれる。

ついた先はアイスクリーム屋で、奏江の目の前にはキョーコのおごりであるアイスクリームがあり、

(…どうして言えないのかしら…“誰が親友よ”とか“勝手に決めつけないでよ”とか…今まで散々言ってきたのに…。)

それを見つめながら、先ほどのキョーコの親友発言に何故、反論できなかったのか考えていた。

「私、前からこう言うのを、どこからの帰り道で友達と一緒に食べてみたかったの!」

そんな奏江の心境など知らず、キョーコは嬉しそうにアイスクリームを食べる。

(それだけじゃないわ…さっきだって、この子が油断にならない子だってわかって警戒したのに、今までみたいに突き放す気にはなれなかった…その理由は…。)

深く考えながら、奢ってもらったのだがら、一口でも食べようとアイスクリームを食べるとあまりの美味しさに驚く。

「おいしかったね、アイスクリーム!」
「…ええ…まったく…。」

そのせいで美容のために甘いものを口にしようとしない奏江はうっかりペロリと食べてしまい、どんなこしゃくな味付けをしたのかとアイスクリーム屋を恨んでいたら、

「誰かと一緒に食べるってやっぱり嬉しいし、楽しいよね~。それがきっと魔法なんだね…一緒にいるのが大好きな人ほど、美味しいものをもっと美味しくさせちゃう不思議な魔法…。」

キョーコの言葉に奏江は再び目を見開いたが、

「なんて、これじゃあ、まるで愛の告白みたいじゃーん!!」

どーん!勢いよく彼女に背中を押されて、突き飛ばされたのと同時にザッパーン!と噴水の水が跳ねる。

そのため、奏江たちは目を瞬きながら、噴水のほうを見れば、何故か絵梨花が噴水に入っており、

「こ…高園寺さん…?」
「何してるの…?」

戸惑いながら尋ねれば、

「…琴南奏江…っ。ここまでこの私をコケにして…っ。」

憎たらしいとでも言うように彼女は睨んでくるので、え?なんの事?と二人は思うと、

「無傷で済むとは思わないでよーー!!」

どこから入手したのか不思議だが、カーネルサンダースの置物をこちらに投げたため、

「ひゃあああ!」
「な、なんなのよ!」

慌ててよけて逃げたが、これまた何故か大怪我を負っている執事三人に松葉杖で奏江は捕獲されてしまう。

「モー子さん!!」

キョーコは奏江を助けようと駆け寄り、

「モー子さんを離しなさいよ!!」

執事の1人を剥がそうと試みるが、邪魔をするなと突き飛ばされてしまった。

「…!ちょっと、どういうつもりよ!!なんの目的があってこんなことするわけ!?」

それを見た奏江は絵梨花に睨みつけると、彼女はクスっと笑い、

「…聞いたわよ?身体に傷をつけたらクビなんですって?」
「…!?」
「これで顔を殴ったら、傷ってつくかしら?」

ダイヤの指輪を手のひらのほうに回して奏江に見せつける。そんなもので殴られたら、傷は付くのは当たり前だ。

「…っ。実力で適わないから、今度は暴力ってわけ?あんたってどこまでいっても結局はそうなのね!それがあなたの自身の実力を伸ばしきれない原因だってどうして分からないの!?」

予想外の言葉だったのだろう。絵梨花は目を丸くする。

「いい!?あんたはいざと言うとき、自分の財力に頼ることを前提に生きてるのよ!もう無理かもしれないって逃げたくなっても、傷つくかもしれないってわかってても、それでも全力でぶつかったことなんてないでしょ!?だって、あんたは何かに躓いて転んでも怪我なんてしない、のどかで綺麗な世界に立ってるんだから!私とは違う世界に立ってるのよ!そんなフィールドの違う人と初めから勝負なんかならないわ…!!」

キッパリと言う奏江に絵梨花は何故か情けない顔をし、

「私に勝ちたいと思うなら、そこから降りて来なさい!!そして少しは傷をつけてきなさいよ!!そしたら、そしたら…私はあんたをライバルだと認めるわ…。」

奏江の最後のほうの発言に今度は目を見開いた。そこに二人の間に風がふき、奏江の髪と絵梨花の髪を揺らす。

「…させないから…。」

するとぼそっと絵梨花が呟き、

「そんな偉そうなこと言って…絶対、降りてこいなんて言わなきゃ良かったって後悔させてやる…!!」

キッと睨んで奏江を睨む。そんな彼女を見た奏江は僅かに微笑むと

「待ってるわ…。」

そう口にした…欲しいものは傷だらけになってね…と思いながら…。