「…へ…へくしょん!!」

ハンカチで鼻を押さえてくしゃみをする社。そしてぶるぶるガタガタ震える。そんな彼の服装は有り得ないくらいに着込んでいた。

「や、社さん大丈夫ですか?明らかに昨日より具合が悪いですよ?やっぱり帰って寝たほうが…。」
「大丈夫、大丈夫。」

実は昨日から社はくしゃみをしていたのだが、見るからに悪化しているため、蓮は心配するが、あははと笑って流す社。

「や、社さん!?」

その瞬間、柱に彼はゴンとぶつかり、蓮は大丈夫ですか?と聞くが反応がない。

「や、社さん…?」

そのため、彼の顔の前で手を動かすが、その瞬間にぐらっと彼は傾き、

「や、社さんーー!!」

そのまま倒れてしまった…。

その午後のこと。

「…と言うわけで敦賀さんの代マネを松島主任から頼まれたのですが…。」

蓮の目の前にはドピンクつなぎを来た彼の愛おしい少女が立っている。

何故、彼女が代マネをするのかと言うと、事務所のほうで風邪が大流行しているため、人手が足りないらしい。

ちなみに社は一昨日、事務所に寄ったので、完全に風邪をもらってしまったようだ。

「理由は分かったけど…最上さん出来ることはないと思うよ?」
「ええ!?で、でも私、松島主任によろしく頼まれてて…!それに敦賀さんの代マネなら以前にやったことありますよね!?なら…!」
「君の言い分も分かるけど、前とは状況が違うから…多分、スケジュールについてくるだけで疲れると思う。」

あの時は殆ど映画のロケであり、キョーコが疲れるほどでもなかった。だが今回は違う。

「で、でも…!」
「…ふぅー、分かった。じゃあ、こうしよう。今日1日やってみて、俺がダメだと思ったら、帰らせるから。」
「え…ええ!?」
「じゃないとこの場で帰らせるよ?」
「…!!わ、分かりました!!この最上キョーコ、全力で努めさせてもらいます!」

と…言ったものの、キョーコは蓮に言われた通りの状況に陥っている。

それはもう忙しいのだ。常に早歩き行動は当たり前。スタジオに入っても一時間で抜けて、また一時間後には戻ってくると言う状態。

しかも、蓮はマネージャーらしい仕事をさせてくれない。

まず荷物を持とうとしたら、

「ダメ。(好きな)女の子に荷物を持たせて歩くなんて出来ないから。」

蓮が荷物を運んでしまうし、

「きゃああああ~~!!蓮~~!!」

ビルから外に出れば、蓮のファンで溢れていて、普通はマネージャーが守るところなのに、逆に抱き寄せられて蓮に守られてしまう。

彼ごとく、

「(好きな)女の子に守られるなんて情けないから。」

だそうだ。あげくの果てには、ヘマをしてセットを壊し、

「す、すみません。うちのマネージャーが…。」

蓮に謝らせてしまった。ちなみに()の部分は蓮の本音で口にはしていない。

「…な…情けない…。」

役にたつどころか迷惑をかけているため、落ち込むキョーコ。

「スケジュールとかは社さんが全部やっててくれてるのに…。」

パラパラと手書きのスケジュール帳を見ながら溜め息をつく。

「やっぱり、帰っていいって言われるよね…これじゃあ…。」

もう一度溜め息をつき、鞄にスケジュール帳をしまうと、蓮のほうを向く。

「あれ…?」

彼のほうを見れば、咳をしていた。

(…そういえば、今朝からたまに咳をしているような…?)

首を傾げたキョーコはジーと蓮を観察していると、また彼は咳をし、

「…!!」

喉を抑えたため、キョーコは目を見開いたのだった…。