(…なんか、喉に違和感を感じるな…。)

蓮は首を傾げていた。今朝からどうも喉に違和感を感じるのだ。

(何か飲むか…。)

自動販売機まで足を運び、小銭を入れて蓮はピッと砂糖とミルクが入った紅茶を購入。

「異常だわ…。」
「…!?び、びっくりした…。」

足音がしなかったのに、真後ろから声をかけられた為、蓮はびっくりし、振り返ればキョーコがいる。

「敦賀さん…今、砂糖とミルクが入った紅茶を購入しましたよね?」
「か、買ったけど…それが何?」
「どうしてですか?」
「え…?どうしてって…何となくそんな気分だったから…。」
「嘘です!私、知ってるんですからね!?敦賀さん、紅茶もコーヒーもストレートで飲むじゃないですか!!そもそも、甘いものは好きじゃないはずです!!そんな人が砂糖とミルクが入った飲み物を飲むなんて異常でも何者でもありません!!」

はっきりとキッパリ言い切るキョーコに、

「い、異常って…うーん、まぁ…確かにこういうものを珍しく飲んでみようかなって思ったのは事実だよ。何だか疲れてるみたいだし…。」

知らないうちに疲れが溜まったのかもと蓮は思いながら言えば、キョーコはニッコリと笑う。

「…へー。敦賀さんは疲れてると喉にくるタイプなんですかー。」
「ん?いや…喉にきたのは初めてかな…?」
「何か喉につっかかるような感じしません?唾液を飲み込むだけで喉の奥がむず痒いような。」
「よく分かるね。ちょうどそんな感じだよ。と言うか、その前によく喉が変だって気づいたね。」
「だって敦賀さん、今朝から、よく咳をしてますから。こう言う状態をなんて言うか知ってます?」

そこまでニッコリと笑っていたキョーコだが真顔になって、

「風邪ですよ。」

病状を再びキッパリと告げた。

すると蓮は鼻で笑った為、

「…!?」

キョーコはびっくりした。鼻で笑った蓮など見たことないので。

「わ、笑い事じゃないですよ!!それは風邪の初期病状です!!酷くならないうちにお薬を飲んで…。」

安静にしてくださいとキョーコが言おうとしたら、また蓮は鼻で笑って、

「ありえないよ。俺が風邪なんて。俺はこの歳まで風邪をひいたことがないんだ。」

だから風邪なんて引かないと言い切るため、

「そんな過去の栄光にすがらないでください!!だいたい、“それ”が風邪じゃないって何を根拠に言ってるんですか!?風邪をひいたことがない人が風邪がどういう病状なんて分かるわけがないんです!!この歳になるまで何度か風邪をひいたことがある私が言うんだから間違いありません!!」

カチンと頭にきたキョーコは反論する。

(う゛…!!)

効果てきめんで蓮は反論を返すことができない。

「だから、それは風邪なんです!!」
「…違うよ。」
「まだ抵抗するんですか!?」
「違うものは違うっ。」
「どうしてそんなに風邪を頑なに否定するんです!?」
「君こそ、なんで、頑なに俺をそんなに風邪にしたがるんだっ。」
「したがるんじゃなくて、そうなんです!!きっと社さんの風邪を貰っちゃったんですよ!!」
「だったら、なお違うなっ。俺は社さんみたいにくしゃみもしてないし、熱も出てないっ。」

真顔で頑なに風邪ではないと言い張る蓮に、

「あなたは子供ですか!?」

私より4つ上の癖に!!とキョーコは怒鳴ると、流石に大人げないと思ったのか、溜め息をついて、

「ごめん…大人げなかった…確かにいつもと違うし、君の言うとおり風邪をひいてるかも…。」
「…最初からそうやって認めてくれればいいんですよ。それを子供みたいに屁理屈を言うから…。」
「う゛…。」

全くの正論に蓮は何も言えない。

「とりあえず、私としては、お薬を飲んでほしいんですけど…どうします?私かってきますけど…。」
「…うん。そうしてもらえると嬉しい。ごめんね?」
「いいんです。敦賀さんが寝込んだら、沢山の人が困るじゃないですか。」

確かに蓮が寝込んだら、大変なことになるため、キョーコは苦笑いを浮かべ、

「まぁ…そうなんだけど…。」

気まずそうに蓮は頭をかき、

「じゃあ、買ってきます。できるだけ暖かいとこにいてくださいね?あと…。」

まるでお母さんのように注意する彼女に苦笑いをしたのだった…。