「こんなにあるんだ、参考書って。」

ローリィから高校の話を聞き、編入試験を受けることになったキョーコは本屋に来ていたのだが、沢山並べられた参考書に蓮が感想を言えば、

「いっぱいありすぎて、なにを買っていいのか逆に分かんなくなっちゃいました…どれにしよう…。」

キョーコは途方にくれる。店員さんに聞くのも考えたが、蓮がいるのは止めた。帽子とサングラスをしているから遠目では分からないだろうが、近くでよく見れば分かってしまうだろう。騒ぎになったら本を買えなくなるに決まっていた。

「…って!敦賀さん、何を買う気ですか!?」

何となく蓮のほう見たら、彼が“サルでも分かる、ことわざ集”とサルの絵が表紙の参考書を持っていたため、ツッコミをいれる。

「え?参考書だけど…。」
「それは見れば分かってます!でも、どうしてサルなんですか!?」
「一番、分かりやすそうだから。」

俺、国語苦手だよねと参考書をパラパラと捲りながら言う。

「敦賀蓮のイメージがあるんですから“それ”だけは、やめてくださいっ。」

他の客に聞こえないように出来るだけ声を小さくして彼女は彼を止める。

「えー。俺、これがいい。」
「ダメです!」
「これがいいのに…。」

止められた蓮は気に食わないのか、頬を膨らます。まるで子供のよう。

「…ぷっ。敦賀さん、子供みたい。」

そんな彼に、ふふとキョーコが笑うと恥ずかしくなったのか蓮は頬を赤くし、

「そう?」
「そうですよ。俺は風邪なんてひいてないって言い張ってたじゃないですか。」
「だって、本当にそう思ってたから…。」
「ふふ、そうですね。そんな子供な敦賀さんには、こっちのほうがいいですよ。」

そう言って彼女が差し出したのは、小学生用のことわざ集。

「小学生って…。」
「サルよりはマシです。サルよりは。」
「そうだけど…。」

じー、と参考書を見つめた蓮は溜め息をつき、

「それで最上さんは何を買うの?」
「適当に良さそうのを買うことにしました。」

彼女を見れば、既に何冊か物色しており、数分くらいで良さげな全科教科の参考書を見つけ、購入した。

その夜中の三時。

良い子はすっかり夢の中だと言うのに、キョーコは未だにリビングで勉強していた。

蚊の羽の音くらいに小さな声でブツブツと言いながら、参考書を広げてノートに問題を解いている。

「…最上さん。」
「ひっ!?」

よっぽど集中してたのか、蓮がリビングに入ってきたことに気づかなくて彼女は悲鳴を上げてしまった。

「ご、ごめん。びっくりさせるつもりはなかったんだけど…。」
「い、いえ…私が気づかなかっただけなので…あの、なにか用ですか…?」
「用はないけど…。」

ちらっと蓮はテーブルの上にある参考書とノートをみて、

「そろそろ寝たらどう?」
「でも、まだ勉強が…。」
「…その台詞、俺が寝室にいく前にも聞いたけど?」

はぁ、と溜め息をついて呆れる。

「そ、それは…。」
「それとも、こんなに必死にならないと受かる自信がない?」

違うだろ?と聞けば、キョーコは黙りこんだ。

「君は頑張りすぎだよ。」
「え…?」
「何事にも一生懸命なとこは君の良いところだと思う。でも…。」
「…!」

突然、片目を触れられてキョーコは反射的で目を閉じると、

「目が赤い。」

瞼にキスを落とされて、リップと共に離れていき、キョーコは頬を染める。

「頑張るのはいいよ、もちろん。でも頑張りすぎると逆にミスになって結局ダメになる。無理をして風邪をこじらせたり、徹夜でやってテスト中に朦朧したり…。」
「そ、それは…。」
「最上さん、君が今しているこの勉強は誰のため?もちろん、自分のためだ。母親に褒めてもらうための受験じゃないんだよ。」

キョーコは目を見開いた。あ、と声を上げる。

「…あはは、可笑しいっ。」

そして彼女は笑い出す。

「私、無意識に100点をとらなきゃいけない気になってました。あはは、バカみたい!」
「…最上さん。」
「はい?」
「一緒に寝ようか?」
「…はい。」

こくんと頷くと、おいでと招くように蓮が両手を広げたため、キョーコはゆっくりと彼に抱きつき、彼も彼女を抱きしめた。

その仕草はとても優しく包む込むようで…。

(…ありがとうございます、敦賀さん…。)

また、古傷を癒やそうとしているようだった…。



゜・:,。゜・:,。★゜・:,。゜・:,。☆


あとがき

貴方の隣で私は密かに咲く、60話目です。

すみません、最後のところは少しわかりにくいかもしれません(^_^;)

とりあえず、このシーンは絶対に入れたかったので目的達成です。

次回、風邪ひき編は完結し、ある人物が登場します。お楽しみに(誰も楽しみにしてないかもしれないかもしれませんが;


ローズ