ことは数時間前のこと。

「困ったな。」
「ええ、困りました…。」

フッと遠目に笑うローリィと蓮。

「あの人のことだから、すぐに見つかると思ったのに…。」
「俺もそう思っていた。何せ歩く美術品だからな…彼女は…。」

ローリィはある人間から彼女が日本に来日するつもりかもしれないと聞いて慌てて空港に問い合わせば、それらしき人物がいたらしい。

それから、彼女の行方を探していたのだが、まったく見つからないと言う現状で二人は頭を抱えた。

「ご、ごめん~!ダーリン~!つい、うっかり言っちゃったの~!」

ホントごめんね?とローリィに謝るのは背の低い少女。

「テン…相変わらず、お前は彼女に弱いな…。」
「だって~。私、綺麗なもの大好きなんだもの~。」
「…原石を磨くのと宝石を磨くの、どっちが好きなんだ、お前は…。」
「あら、どっちも好きに決まってるじゃない~。私はいつだって愛と美しいものの味方よ~?」

うふふと笑って少女は目をうっとりさせる。

「ところで、ミス・ジュリーウッズ…。」
「あ、またっ。もう!!いつもテンさんって呼んでって言ってるでしょ!蓮ちゃん!!」
「す、すみません…。」
「で、なんなの?」
「…あの人に何を話したんですか?一体…。」
「うーんと…怒らないで聞いてくれる?えーとね?蓮ちゃんに好きな子が出来たみたいって言っただけ…。」

なのよ?と言うつもりだったのに、蓮が本格的に頭を抱えだした為、テンは言えなくなった。

「…間違いありません。それが来日の理由だと思います…。」
「ええ!?と言うか、やっぱりいたの!?ハッ!ま、まさか蓮ちゃんの恋を邪魔しに…!?」
「いえ…それはないと思います…。」
「ねぇな…むしろ、応援しにきたんだろう…でだ。考えたんだが、来日した彼女は、まず何をすると思う?」
「普通に考えると俺に会いにくるんじゃないですか?」
「まぁ、普通はな。」
「最上さんのところにいけるわけがないでしょう?あの人は俺に好きな子が出来た事しか知らないんですから。」
「それはどうだろうな…。」
「え?」
「なぁ、蓮。あっちに最上くんのことを言えるやつが1人いるんじゃないか?」
「いや…そんなまさか…。」
「何せ、彼女はお前の母親だ。聞けば、話しちまうだろ。」

ローリィにそう言われて、蓮は簡単にそれが想像できて眉間に皺を寄せる。

「そう…ですね。結構いい加減な所があるので…。」
「これで犯人は決まりだな。」
「ええ。あとで彼が困り果てるように彼女に何か告げ口しておきます。」
「そうしておけ。」

犯人はテンではなく、真犯人は別にいたと言うことでこの件は置いとき、

「…と言うことは、あの人は最上さんを探してるってことですかね。」
「まぁ、そうだろうな…。」
「探してどうするんでしょう…。」
「連れまわすんじゃないか?何せ、お前の初恋の相手だ。最上さんを気にいれば、娘にする気まんまんだろ。」
「え!?蓮ちゃん、初恋なの!?」

まさか初恋だと思ってなかったらしいテンは驚く。

「どんな子なのかなって思ってたけど、蓮ちゃんの選んだ子だから、きっと良い子ね!会ってみたいわ!」
「大丈夫だ。会えると思うぞ?」
「ホント!?」
「ああ。俺の勘が言ってる。」
「嬉しい!あ、でも。つまり、ジュリはここにくるってことよね?」
「まぁ、そうだろうな。」
「その子をつれてよね?」
「ああ。」

ローリィは頷くとテンは何かを考える仕草をすると、

「ねぇ、蓮ちゃん。その子は蓮ちゃんが日本人じゃないって知ってるの?」
「え?」
「知らなかったら、その子は混乱するんじゃない?だってジュリはどこからどう見ても日本人じゃないもの。そんな彼女に息子よって言われたら、混乱するでしょ。冷静になったらなったで全部話さないといけないし…そんな重要なことを隠してたのかって怒ると思うわ。」
「そ、それは…。」
「で!提案なんだけど!蓮ちゃん?クオンくんに戻っちゃいなさい。」
「は?」
「だって、そしたら、少なくとも蓮ちゃんとクオンくんが同一人物だってこの場ではバレないでしょ?」
「い、いや…それは…。」
「何か問題があるの?」

テンは知らないが、戻ると困ることが1つあるのだ。

(戻ったら、確実に俺がコーンだってバレるな…。)

だからと言って、全部バレると後がヤバい状況になる。少なくとも、それに関しては自分で後々言うつもりだったのだから…。

「…分かりました。よろしく頼みます。」

頭を下げて頼むとテンは笑顔で頷き、

「と言うわけだから、いつもの場所借りていい?ダーリン。」
「ああ、構わない。そうしたほうがいいだろうしな。」
「じゃあ、蓮ちゃんこっち!」
「はい。」

こうして、蓮は本来の姿…クオンに戻ることになったのだった…。